『すごく優しい人』だとは思う。

だけどあたしは本当の彼を見た事がない。


クレアなら、本当のイザークを見た事があるの?

クレアなら・・・・イザークの婚約者なら本当の彼を・・・・・。






































                         の事情、女の事情・3


































夜が明け、朝になる。
ここは宇宙なので太陽の光も無ければ木々を飛び交う鳥もいない。
朝とは言い難い朝を、此処に居る人達は毎日毎日迎えていた。



昨日から、寝て一日が経てば少し気が楽になるかなと思ったけれど、実際それほど変わりはない。
寧ろ朝なので体がだるい。


昨日のイザークとクレアの事を思い出し、溢れそうな涙をぐっと堪える。

婚約者なのだから仕方ないと言い聞かせても、やっぱり好きな人が誰か違う人とキスをしているのを見てしまったのは辛い。


だからと言って公私混合は良くない。
けじめとしてピシッと両手で自分の両頬を叩いてから、軍服に着替え食堂に向かった。




部屋のロックを解除し、廊下に出ようと足を踏み出した途端。

「あっ、!」

「・・・え?」

どこかで聞いた事のある声。

それはクレア・デビッドのものだった。


の部屋って此処だったんだね!あ、ねぇ、これから朝食でしょ?」

「あ・・・はいそうですけど」

「じゃあ、一緒に行こう?昨日はあまり喋れなかったもんね」

「え・・・えっと・・・・・」


しまった。よりにもよって今一番会いたくない人物に会ってしまった。
しかし事を起こしたクレアにはもう何を言っても遅い。
はされるがまま食堂へ連れて行かれた。





クレアに食堂へ連れて行かれたは、クレアの行動に吃驚していた。


「イザーク!」

「・・・クレア」

「ねぇ、この子って言うんだけどね、今日はも一緒に食べて良いでしょ?」

「あ・・・・・」


クレアは、食堂でイザークの姿を発見すると即刻彼にを紹介する。
これが昨日の今頃の出来事ならは嬉しい事この上ないけれど、
昨日あんな事を言われてしまった為はっきり言ってあまり嬉しくなかった。
寧ろこれは物凄く気まずい状況なのだと思う。


「・・・構わん。好きにしろ」

「ありがと!じゃあはイザークの前に座ってて!あたしがの分も持って来るから」

「あ・・・ちょっと待っ・・・」


の訴えも空しく、クレアは直ぐにカウンターへ向かって行った。

本当に、クレアという人物はお嬢様なのだろうか。
少なくとも彼女本人からはそういった雰囲気は全く感じない。
だけど、それがまた彼女の魅力なのかもしれない。
とても親しみ易い明るい女性。


クレアが居なくなってしまったと言う事は、今此処にはイザークとしか居ない。
そこには当然の如く例えようの無い気まずい雰囲気が漂う。
視線も、昨日の今日なので合わせづらい。必然的には下を向く形になる。
勿論会話だって見つかる筈が無い。あるのは沈黙だけ。


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・おい、貴様」

「へっ!?は、はいっ!」

「貴様が俺をどう見ようが勝手だが、そんな怯えた小動物な目で俺を見るな。気分が悪い」

「あ・・・・す、すみません・・・」

「・・・・・ふん」



早くクレアが戻って来て欲しい。
の頭の中はそれしかなかった。
大体、何故今自分がこんな所に居てこんな気持ちでいるのかが分からない。
婚約者でも何でも無いのに。



「はい、!」

「!」

そう言っての目の前にはトレイに乗せられた食事が置かれた。

戻ってきたクレアはこの時はまるで、天使のようにも思えた。
この時だけは。



「でさー、あたしその時ねー」


の隣に座ったクレアは、イザークと二人で淡々と話を進めていった。
途中で何度か「ね、?」と話題を振ってくれたりもしたが、イザークが居る為は何かとこの場に居る事すら辛かった。

おまけに、好きな人と他の人が楽しそうに喋っている。
こんな光景、見たくない。
厭だ厭だ厭だ厭だ。あたしの前で喋らないで。笑わないで。
時間なんか、早く過ぎれば良いのに。
どうしてこういう時に限って長く感じてしまうんだろう。





「あ、もうこんな時間・・・。ってこの後シミュレーションあるよね?」

「あ、はい、あります」

「そっかー。じゃ、仕方ないか。あたしは今日は仕事しなくて良いから暇なんだけどねー」

「折角の休みなんだから貴様は体を休めれば良い」

「うーん・・・でも一日中休むほど疲れてないし」

「休んでおいた方が良いと思いますよ?また戦闘になった時の為にも・・・」

「んー・・・じゃあそうするわ」

「じゃあ俺達はシミュレーションがあるからもう行くぞ」

「うん。頑張ってねイザーク、

「ああ」

「えっ?」


今イザークは俺『達』と言った?
それはあたしもその中に入ってるという事?

そう考えたは間抜けな声を出してしまって、イザークに睨まれる。


「・・・貴様も行くんじゃないのか?」

「あ、いや、行きます・・・けど」

「ならさっさと行くぞ」

「は、はいっ!」


イザークにそう言われて、はイザークに連れられて廊下へ出た。

それでもやっぱりの態度はぎこちない。
そんなを見かねてか、イザークはまたに言った。


「・・・・おい」

「は・・・はい」

「その怯えた小動物のような目は止めろと言った筈だ」

「え、あ、いや、その・・・す、すみません」

「謝罪など何回も聞いたからするな。いい加減聞き飽きる」

「で、でも・・・」

「俺はその目をするなと言っているだけだ。謝るな」

「・・・はい・・」


言葉はきついが、どこか温かい。
やっぱりイザークは優しい人だ、と改めて感じる。


「・・・・・、と言ったか?」

「は、はい?」

「昨日はその・・・・悪かったな。貴様は俺が言ったような事をする奴などではないのに」

「え・・・あ、べ、別に気にしてないですし・・・!!」

「貴様の実力は俺も認めている。精々同僚に抜かされぬよう頑張る事だな」

「は、はいっ!」





聞く人によればそれは嫌味にも聞こえたかもしれない。
でもにとっては、それはイザークなりの優しさのように思えた。


























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あとがき(言い訳)

イザークが沢山書けて楽しかったです!
好きな人とぎくしゃく関係なのは私も嫌なので今回はわりと気に入ってたりします。
さて、この後ニコルとかがどうなるか・・ですね。長引きそう;;;;


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