それがどれだけ辛い恋だとしても。
あたしの気持ちは変わらない。
泣きたくなる時なんて沢山あった。
それでも、彼の顔を見たら元気が出る。
それだけで、全てが救われる気がした。
彼の事情、彼女の事情・1
「・・・、?」
「・・・へ?」
「あーもうったらまたボーッとして!」
「ごめんごめん、!」
「また彼の事?」
「・・・・うん」
とは、ヴェサリウス内でも珍しい、赤を着る新人パイロット達だった。
赤を着るだけあって、二人ともアカデミーの頃から成績は優秀。
誰もが一目置く存在であったと言える。
「・・・かっこいいよね、イザークさんは・・・」
「うん・・・そうだね」
「そりゃぁ婚約者が居ない方が可笑しいもんね」
「でもは・・・」
「・・・もう良いの。あたしは何度も諦めようと思ったけど、やっぱり無理だったもん」
「・・・」
「諦めるのは、やっぱ無理・・・。でも遠くからでも彼を見れるだけで幸せだから、今はそれで充分なんだ」
「・・・あたしはイザークさんの婚約者があのクレアさんでも、を応援してるわ」
「・・・うん、ありがとう」
胸が締め付けられそうなこの想い。
叶わぬ恋だと分かっていても、諦めきれないでいる自分に嫌気が差す。
クレアは当然イザークを愛している。それは彼女の態度を見れば一目瞭然。
イザークだってきっとクレアを愛している。
の入る間なんて、皆無に等しい。
今まで喋った事すらなかったけど、はアカデミーでイザークを初めて見た時から惚れていた。
綺麗に整えられた銀髪に、あの顔立ち。
性格は良いとは聞かないが、根は優しそうな感じだった。
笑った顔は見た事が無いけれど、さぞ美しいんだろうなと何度も思った。
綺麗なアイスブルーの瞳は何時でもただ真っ直ぐ目の前の事だけを見ていて。
彼の、それだけ一つの事に集中出来るという所にも惚れていた。
そんなイザークに婚約者が居るという事実を知ったのは、最近の事ではない。
初めて知った時はそれなりにショックを受けたが、良く思えばエザリア・ジュールのご子息でもある
イザークに今まで婚約者が居なかった方が可笑しい。
しかも相手はクレア・デビッドなのだから、誰も不満を抱く者は居ない。
デビッドといえばプラントでも有名な名門一族で、クレアは俗に言う『お嬢様』というやつだった。
イザークと肩を並べても違和感が無いほどお似合いと言える二人だった。
だから、はこうして遠くからイザークを見る事しか出来なくなったのだ。
元々遠かった二人は、更に遠くなった感じだった。
「イザークさんを好きな気持ちなら、あたしだって負けるつもりはないんだけどなぁ・・・」
本音。
が唯一クレアに勝てると自信がある所は彼を想う気持ちだった。
と別れたが、曲がり角を曲がろうとしたその瞬間だった。
「結婚式までまだまだだけど、あたしはすっごく楽しみだよ」
「・・・ああ」
「・・・戦争なんか早く終われば良いのにね」
「その為に俺達が戦っているんだろう?」
「・・・うん。イザークは、絶対あたしを残して死んだりしないでよ・・・?」
「・・・当たり前だ」
二人の男女の声が角を曲がった廊下からした。
一人はクレア。
もう一人は、イザーク・ジュール。
「それじゃ、あたし部屋に戻らないといけないから。じゃあね」
「ああ」
そう言って二人は軽いキスをする。
は高鳴る心臓と張り裂けそうな想いを押さえるので必死だった。
婚約者ならそれくらいして当たり前。
そんなの、前から分かっていた事じゃないか。
それ以上の事だって、きっと。
は壁に寄り掛かって何とか平常を保って、涙をぐっと堪えた。
すると必然的に角を曲がってきたクレアがにぶつかる。
「きゃ・・・!」
は思わず尻餅をついてしまった。
「あっ、ごめんなさい!あたし人が居るの知らなくて・・・」
「あ、いえ・・・こっちも不注意でしたから・・・」
がそう言うと、彼女の前に手が差し出された。
「ごめんなさい、此れにつかまって」
「あ・・・・・すみません」
「あなた・・・えっと・・・さん、だったよね?」
「?はい、そうですが?」
「やっぱり!あなた新入隊員の中でもずば抜けて成績が良かったから、あたしもよく憶えてるんだ」
「・・・ありがとうございます」
「あたしはクレア・デビッド。クレアで良いよ。あたしもって呼ばせてね」
「あ、はい・・・じゃあそうさせて頂きます・・・」
「・・・それよりさっきの、もしかして見てた・・?」
「・・・・・・」
『さっきの』というのは、キスの事だろう。
見た、と言うよりは見てしまった、と言う感じだった。
「・・・・やっぱり・・。まぁ、こんな所でするあたし達が悪いんだけどね。気にしないでね?」
「はい・・・・特に気にしては・・・」
「じゃあ、またお話しましょうね!あたし戻らないといけないからまた今度!」
「あ、ではまた今度・・・」
調子が狂う。
クレアはとても良い子なのに。
良い子だから、調子が狂う?
良い子だから、イザークにお似合いだと思うの?
クレアはブリッジで仕事をしながらも、パイロット達の事をいつもきちんと考えて、
おまけに新入隊員のの事もしっかりと憶えてくれている良い人なのに。
何故か、は好きにはなれなかった。
その『何故か』が、は分からなかった。
イザークとクレアのキスを見てからというものの、その日のの戦闘成績は最悪だった。
「隊員!」
「は、はいっ!」
は戦闘指揮官に呼び出しを食らった。
「どうした、今日の成績は最悪だぞ」
「・・・すみません」
「何があったのかは知らないが、何かある度にこのような事になっていては先が思いやられるぞ」
「・・・明日からは精一杯頑張ります」
今日のの成績は、本当に誰に何を言われても仕方がないほど悪かった。
理由なんて分かっている。
そこに。
「全く・・・こんな調子でよく赤が着れたもんだな」
「・・・・・!」
ずっと聞きたかった声がの耳に入った。
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あとがき(言い訳)
シリアス書くのってどうしてこう、楽しいんだろう・・・!!
私は甘々系よりも病み気味の方が書くの好きだったりしますから!笑
このもどかしい雰囲気が楽しいです
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