朝、目が覚めると昨日の出来事がまるで嘘のように思えた。

2年前、すごく悲しくて。
でも泣く事は出来なくて。
あたしの中で永遠に『初恋の人』だった人。

まさか。
これは夢。
きっと今日学校へ行けば、うん、普通。

だって、こんな偶然、有り得ないもん。






























2年の

























「・・・お、おはよう」


転校して二日目の学校。
こうして朝一で話しかけるのも少し緊張する。
だって、あたしは小心者だから。
だから、たかが挨拶だけで心臓がドクドク言ってる。


「・・・おはよう、さん」


未だに落ち着きの無いあたしに、さんは優しく接してくれた。
ああ、何て良い人。

あたしがそうほっと胸を撫で下ろした瞬間、今まで忘れていた事をずばっと言われ、現実に引き戻された気がした。



さんって、シゲの知り合いだったんだね。同じ関西弁だし」

「えっ・・・・シゲちゃん?」

「うん、シゲ」

「あ、あれ、夢じゃなかったん!?」



そのあたしの言葉にさんは、え、なに、どうしたの?と首を傾げた。



「あ、だって・・・シゲちゃんはあたしが小学生の時に何処かに転校しちゃったから・・・まさか、転校先で会うとは・・・」

「あれ?シゲを追って転校して来たんじゃなかったんだ」

「え、違うで?」

「・・・ふーん」


そしてさんは席を立って他の友達の所へ行った。

それから数秒経ってから、あたしは自分の席に着いて鞄から教科書やノートを机に仕舞いこんだ。
さっきまで高鳴っていた心臓も、落ち着きを取り戻したとは言え未だにドクドク言うのは止まらない。

あたしは、怖かった。

初めての転校は、何かと不安でいっぱいになる。
あたしは決してクラスのリーダーと言える存在でもなかったし、なろうとも思わなかった。
どっちかと言うと小心者だ。
だから転校すると聞いた時、不安で仕方なかった。


でも、この学校にはシゲが居る。
それだけで、充分だ。

あたしはその嬉しさを、そっと胸に隠した。























三限目も終わると、新しい学校での授業にも慣れてくる。

精神的にも余裕が出てきたあたしは、一目顔が見たくなってシゲに会いに行こうとした。


さん」

「あ、さん。どうしたん?」

「ちょっと、来て?」


わけが分からなくて、頭の上に?マークが付いたままあたしはさんの後を追った。
彼女はそれ以上何も言わなくて、ただあたしの前を歩くだけだった。




人が多い廊下を曲がって更に階段を降り、その角を曲がると人が滅多に通りそうもない学校裏に来た。
そこに、さんの他に三、四人の女の子達が居た。
その子達もまた、確か自分と同じクラスに居た女の子達。

・・・まるで、少女漫画のような光景。



「・・・あの、あたしに何か用?」

あたしがそう不安げに尋ねてみると、その中の一人が眉をしかめて口を動かした。


「・・・あのさあ、さんってシゲの何?」


唐突にそんな質問をされた。

シゲの何?

シゲの何、って言われても、どう返せばいいの。
ただの幼馴染。幼稚園の頃からの友達。
・・・なんで、こんな質問されなきゃいけないんだ。


「・・・幼馴染、やけど」

「それ、本当に?なんかさー、それ超嘘くさいんだけどぉー?」

「なっ・・・嘘やない!!なんでそんな事あんたに・・・」


言われなきゃいけないんだ。

そうは続けられなかった。
だって、あたしは小心者だから。
そこで黙った。


「・・・さん、ちゃんと分かってる?シゲってさ、すごく人気者なの。まあ、見たら分かるよね」

「で、あたし達もシゲが好きなの。それなのに転校したての奴がいきなり親しげにしてると、こっちとしては超ムカつく」

「そうそう。あたし達の他にもシゲの事好きな子いっぱい居るのにさ、その子達も可哀想だよねー」

「シゲだってほんと迷惑って言ってた。ねえ、さんってちゃんと人の気持ち考えたことある?」

「考えたことあるんだったらあんな事しないよねー、普通。だからさ、」






サン、チョウシノリスギ。



その言葉が頭から離れなかった。


どうしてあたし、今こんな事言われてるんだろう。

あたしがシゲと喋るから?
あたしがシゲと親しげだから?
それは、いけない事なの?





「・・・ま、こんだけ言えば分かるんじゃない?」

「分かったなら、もう二度とシゲと喋んないでよね」

「シゲはあんただけのものじゃないんだから」


そう言い残して女子達はさっさと教室に戻って行った。

その場に残されたあたしは、静かに泣いた。
校内から四限目開始のチャイムが聞こえたけど、そんなのどうでもよかった。
ただ、泣いた。

どうしても教室には戻りたくなかった。


でも、あたしは一体何処へ行けばいいんだろう。

転校したての学校で、何処が何の教室かもよく分からない場所で。
そう言えば、自分の教室も、職員室さえも分からない。
その不安が更に積み重なって、あたしは泣きながら行く宛ても無く歩いた。


着いたそこは、医療道具やベッドなどが置いてある事から保健室だと分かった。
先生は居ない。でも鍵は開いている。
あたしは、迷わずそこへ入った。

室内に入ると保健室独特の薬品の臭いが鼻についた。
頬に流れ続ける涙を拭おうと、ティッシュを手に取り鼻をかんだ。

ずびびーと水音を立てて鼻をかんで捨てようとした時、奥で何かが動いた気がした。


「先生ぇー」


今、奥から声が。
うん、確かにした。

誰か、居るの?


「えっ・・・あ、あの・・・」

「ちょっと体温計取ってくれへんか」

「あ、・・・うん」


どうやら奥で寝ている人物はあたしを先生と間違えているようだった。

でも、この声。
この関西弁。
まさか。



「・・・シゲ、ちゃん・・・!?」

「お、やっぱりやった」


そう言って、カーテンを開けて中から出てきたのはシゲだった。
彼が動く度に揺れる金髪が綺麗だった。


「な、んであんたこんな所に・・・」

「失礼やなぁ。俺は風邪ひいて熱出よったから休んでるんですー。こそなんやねん。サボりか?」

「サボりなんかじゃ・・・っ」


いや、待てよ。これは立派なサボり?

いや、違う。断じて違う。
あたしはそう言い張る。


「・・・、お前泣いとるんか?」

「・・・泣いて、ない・・・」

「なんでやねん。言ってみろや」

「泣いてない、もん・・・っ」


言い終わった時、拭った筈なのにまた涙で頬が濡れた。
あたしはその場に座り込み、しばらくの間わんわんと泣いた。

シゲが優しくするからいけないんだ。
そう、シゲが。
・・・シゲが。


「・・・ほんまに、昔っから泣き虫やなあは」

「う・・・、ひっく・・・」

「何があったんや?」


そうだ。シゲは昔からあたしに優しくて。
あたしは、それがすごく嬉しくて。




























ちゃん、こんな所でなにしてんの』

『・・・シゲ、ちゃ・・・』

『おばちゃんとか探してんで。ほら、はよ行こ』

『う、うん・・・』

『今日はなにしてたん?』

『・・・かくれんぼ』

『・・・それで、なにがあったん?』

『皆・・・あたし置いて帰っちゃってん』

『薄情やなあ。明日俺が殴っといたるから、任せときぃ』

『な、なにも殴らなくてもいい・・・のに』

『あかん。ちゃん泣かした奴は俺が許さへんもん』

『・・・ありがとう、シゲちゃん』

















そうだ、あの時も。

泣いてたあたしを元気付けてくれたのはシゲだった。


「ほら、。言わな分からへん」

「・・・無理や・・・」

「だから、なんでやねん。俺には出来ひん悩み事か?」

「・・・・・・」


こんな事、言えるわけないやん。

だって、シゲの事が好きなんやで?
それで、もう二度と喋るなって言われてんで?
言ったら何されるか分からへん。



「・・・ほら、はよ言え。昔から言ってるやろ?俺はを泣かした奴は許さんって」

「・・・言って、いいん?」

「あかんわけないやろ」


ほら、やっぱりシゲは優しいんだ。
だからあたしは昔からシゲの事が大好きで。
好きで好きで、仕方なかったんだ。



「・・・さん達に、言われた」

「なにを?」

「もうシゲと二度と喋るな、・・・って」

「・・・・・」

「・・・あたし、なんでこんな事言われなあかんのか分からん・・・っ」


さっきの出来事を思い出すと、また涙が溢れ返ってきた。

あんな事言われたのは生まれて初めてで。
さんは、喋ってくれるいい人やと思ってたのに。


「あたしはなぁっ・・・昔からシゲちゃんの事がめっちゃ・・・好きやったのに!!」


好きやった。
昔からいじめられっ子体質だったあたしに優しくしてくれたシゲが。


突然あたしの前から姿消して東京行って、その後あたしがどんだけ悲しんだか。
シゲは知らんやろう?


「あたしとシゲちゃんが幼馴染やって事も否定されて・・・めっちゃ、ムカついて・・・!!」

「・・・、泣き止め」

「あたしはただ・・・シゲちゃんとまた喋りたかっただけやのに・・・」


シゲはなにも言わずにあたしの方をぽんぽんと、二回優しく叩いた。
あたしの肩を叩くシゲの手は大きくて、二年前との差を感じた。
確か、あの時はシゲもあたしも大差が無かった。


「俺は、何時でもの味方やさかい」

「・・・シゲ、ちゃん・・・」

「俺だってな・・・が好きやってんで?」

「う、そ・・・・や」

「だから、昨日がこの学校に転校してきた時冗談抜きで嬉しかったんやで」


淡々と話していくシゲとは反対に、あたしの脳はそれに追いつけなかった。

好きやったって、それは両思いだったって事?
嘘だ。信じられなかった。



「そんなん・・・シゲちゃんは勝手やわ!勝手にあたしの前から姿消して、あたしがどれだけ寂しかったか・・・!!」

「・・・ごめんな。でもこれからは絶対勝手にどっか行ったりせぇへんから。俺はずっとの味方や」

「シゲちゃん・・・」

「・・・その、『シゲちゃん』っての止めてくれへん?なんかちゃん付けで呼ばれるの、気持ち悪いわ・・・」

「・・・じゃあ、シゲ・・・」

「おっけーおっけー」


シゲはそう言って指でOKサインをして見せた。

そのシゲの姿が二年前と少し変わっているような気がして、あたしはまた泣いた。
そんな泣き虫なあたしの肩をシゲは再び優しく抱いてくれた。























「シゲ・・・聞いて」

「なんや?」

「あたし、シゲが東京行ってから一回だけ他の人を好きになった事があんねん」

「・・・あっそ」

「お、怒ったらあかんで?・・・でもな、その人と一回付き合ってみたら、やっぱりシゲが忘れられなくてすぐに別れてん」


鼻をかんだティッシュでいっぱいになったゴミ箱を蹴りながら続けた。


「あたしの中では初恋がシゲで・・・そんで今もシゲやねん。あたしはシゲが居ないと生きていけない・・・と、思う」

「思う、かいな!」

「嘘うそ。・・・そやから、今度シゲがまた居なくなったら絶対許さへんから」


あたしがそう言い終わると、シゲは一息吐いて耳元で囁いた。





「・・・俺は、もうしか愛せへんからな」





昔から、シゲの何もかも全部が好きだった。


































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あとがき(言い訳)

・・・シゲが好きだったので・・・。。。
とりあえず、すみません。。
なんか、温い・・・







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