夢を見た。
一人の少女と自分の。
この頃の自分はまだ何も飾り気が無くて、彼女も清楚そのものだった。
笑顔の二人。きらきらと照りつける太陽。
笑顔が絶えない彼女と自分。
それらを今の自分と比べてみたら厭な部分ばかり気が付いた。
そして、何もかもが厭になった。
そんな、夢を見た。
2年の歳月
妙にざわざわしているので、目が覚めた。
目の前に広がる光景は今さっき授業が終わったような感じだった。
それにしても、何だかいつものざわつきとは違う気がする。
長時間椅子に座って眠っていた為、背中にずきずきと痛みが走った。
「おはようございます、シゲさん」
「ん、ああ、ポチか・・・おはようさん」
目が覚めたばかりのシゲに風祭が話しかけた。
未だに完全に目が覚めきれていないシゲに、風祭は少し笑みをこぼした。
そこでシゲは、ふと疑問に思った事を風祭に聞いてみる事にした。
「なあ、ポチ」
「なんですか?」
「なんか今日変にざわついてへんか?」
「ああ、それはたぶん隣のクラスに転校生が来たからだと思いますよ」
「・・・転校生?」
予想外の返答にシゲは少し驚いた表情を見せた。
その証拠に目を少し見開き、金色に染めた髪を掻く仕草をしてみせた。
「・・・今時転校生がそんなに珍しいもんなんか?」
シゲは欠伸をしながら何を思ったか席を立ち、教室を去ろうとした。
「あ、シゲさん、またノート貸しますね」
「おう、頼むわポチ」
そう言い残して教室を後にした。
別に教室を出ても何もする事は無いのだけど。
なんとなく、その転校生とやらが気になった。
案の定、隣のクラスの前を通るとざわついていた。
その教室の中を見ると更に人口密度が高い場所があり、そこに転校生が居るのだと分かった。
少し耳を澄ませて聞いてみると、『何処から来たの?』『名前で呼んでいい?』『前の学校では何部だったの?』などの質問が聞こえる。
ありきたりだが、転校生という存在が珍しいうちの学校ではそれは一大イベントなのかもしれない。
こうも人が多ければ転校生が誰なのか、男か女なのかさえ分からないと思ったシゲは彼のクラスに帰ろうとした。
「・・・シゲ・・・・!?」
「はい?」
名前を呼ばれたので反射的に振り向くと、そこには人だかりの中心人物、転校生と思われる人が立っていた。
その表情が驚いているのか喜んでいるのか、シゲには分からなかった。
第一、この女は誰なんだ。
見ず知らずの人間にあだ名で呼ばれるのはあまりいい気がしない。
「シゲ・・・やん、な・・・!?」
「あの、まぁ、俺は佐藤成樹やけど、俺あんたの事知らんしそんな馴れ馴れしく呼ばれても何ちゅーか、困るんやけど」
「シゲ・・・あたしの事覚えてへんの?あたしやで、あたし!!」
「そんなあたしを連呼されても分からんって」
「あたしやで、!!」
「・・・・・!?」
シゲは目を大きく見開いた。
彼女が発したその名前には聞き覚えがあった。
聞き覚えどころじゃない。それはシゲの幼馴染の名前だったからだ。
でも、それは幼馴染。幼馴染という事は今も京都で元気に暮らしてる可能性大。それが何故此処に。
百歩譲って転校したとしよう。でも、何故桜上水?
・・・・偶然、どころの話ではない気がする。
「ああ、おったなそんな奴」
「ひっど!!あたしはシゲちゃんの事忘れた事あんまり無かったのに!」
「俺の幼馴染は今も京都で暮らしてる筈や。あんたは超偶然の同姓同名、ただそれだけ。ほんじゃ」
「ちょ・・・待って!!偶然じゃないよ、あたしシゲちゃんの隣に住んでたやもん!!」
彼女がそこまで言うと、シゲは動きを止めて再び彼女の方へ振り向いた。
「お前・・・ほんまにか?」
「うん。2年ぶり、シゲちゃん」
金髪にしたんだね、綺麗な髪の毛だったのに、と言ってにっこりと微笑む彼女は、幼き日の自分の幼馴染の顔そっくりだった。
いや、そっくりと言うか本人だけど。
でも、未だにどこか認められない部分があった。だって、偶然すぎる。
しばらくすると、人だかりの中からえー、さんってシゲの知り合いなの?とかいう声が聞こえ始める。
まぁ、傍から見て初対面の自分達がこんなにも親しげにしていると誰でも持つ感情だと思う。
「うん、あたし、シゲちゃんの幼馴染。京都に住んでた時よく一緒に遊んでたもん」
がそう言うと、え、マジ!?という反応が返ってきた。
途端には再び人だかりに囲まれて、シゲの目からは見えなくなった。
シゲは、それから静かにその場を去った。
放課後の部活、シゲはいつもと違ってシュートは外すし気は上の空だし、それを心配した水野がシゲに話しかけた。
「シゲ、どうしたんだよ」
「なにが?」
「今日のお前、調子良くないぞ」
「・・・・そやったら、謝るわ」
すんません、とだけ言ってシゲは水野の目から離れ、再び練習を再開しようとした。
「待てよ。・・・なんか、お前らしくない。お前に限ってそんな事は無いと思ってたけど・・・相談があるなら、言えよ」
「なんでもない。ちょっと最近寝不足でな。つー事で俺、今日帰らせてもらうわ」
「ちょ、おい・・・シゲ!」
それだけ言い残して、シゲはその場を去って行った。
「シーゲちゃんっ!」
帰り道、突然後方から自分を呼ぶ声がした。
「・・・?」
「やっほー。部活帰り?なら一緒に帰らへん?」
「・・・お前の家知らんし。今は、京都に住んでた時と違うんやから」
「あ、そっか。じゃああたしがシゲの家までついて行ってあげるで。感謝しいや?」
「いや、別にいらん。つーか俺ん家寺やで?」
「は?寺?」
「まあ色々と男の事情があってな」
そう言ってシゲが歩き始めたのでもその後を歩いた。
「なんか、久しぶりやなこういうの」
「小学校の時も一緒に帰ってたのは低学年までやったやろ」
「そうそう、『もうお前とは一緒に帰らへん』って言われた時あたし泣きそうやったもん」
あはは、と続ける。
シゲはどうしてがこんなに笑っていられるのか分からなかった。
心がもやもやする。
なんでか、分からないけど。
「確かシゲちゃんって、あたしよりいっこ年上やったやんな?なんで今あたしと同じ学年なん?」
「中学上がる時に俺が留年したから」
「留年!?中学校で留年する人、あたし初めて見た!!」
シゲはそうか?きっと俺以外にも中学で留年しよる奴おるで、と言った。
居るわけないやろ、そんな奴!とが言った。
「大体、シゲちゃんは・・・」
「・・・なんや?」
「・・・なんでもない」
そう言い終わると、沈黙が続いた。
少し気まずい。
小学生の頃は、こんな事なかったのに。
「あ、あたしの家あそこ!もうこんな時間やし、帰らないとあかんねん、ばいばい!」
「俺ん家まで送ったるって言ったのは何処のどいつやねん」
「ごめんごめん、まだ引っ越したばっかりで荷物とか片付けなあかんかってん」
「・・・あっそ。ほんならまた明日」
「うん、ばいばい!」
ぶんぶんと手を振って目の前から消えていくをシゲは少しいとおしそうに見た。
別に恋なんて感情じゃないと思うけど。
久しぶりに会えた幼馴染、という存在が嬉しかったからかもしれない。
は家に帰るとすぐにその場にへたり込んだ。
「、あんた何してんの!早く部屋の荷物片付けなさい!」
「ま、待って・・・あたし、今日、シゲちゃんに会った・・・」
「シゲちゃん?シゲちゃんは小学校の時引っ越したんやろ!なに寝ぼけた事言ってんの!」
「ち、違うって!ほんまにシゲちゃんやったもん!」
「分かったから、さっさと片付けなさい」
は階段を上って部屋へ向かう途中、あれは本当にシゲだったのか、と今更ながら疑問に思った。
だって、シゲは引っ越したのだ、が小学校5年生の進級間近の春休みに。
シゲは自分の学年の卒業式を目の前に突然姿を消した。
それなのに、まさか再会するとは思わなかった。
・・・なんだろう、この感情は。
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あとがき(言い訳)
なんか続くっぽいですよ!
なんか、何とも言えない内容なのですが・・・。。。
一回、書いてみたかったのです、シゲの幼馴染設定。
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