恋人の好みを知らないってのは異常なんでしょうか。
彼女はやっぱり彼氏の好きな物とかは知っておかなくちゃ彼女失格なんでしょうか。
あたしは非常に困っていた。
彼の誕生日
「あああぁぁあ!!」
「どうしたんですかさん、そんな女らしくもない声を出して」
さり気にニコルに腹黒い事を言われたのは此処では置いといて。
誰だって忘れはするけど。
いや、忘れてた訳じゃないんだ、決して!!
だけど、あたしは途轍もなく大切な事を覚えていなかった。
「ディディディ、ディアッカ・・・きょ、今日って何日・・・」
「あ?七日だろ」
「は、八月の?」
「当たり前だろ」
「うっそーーー!!あ、ああ・・・ど、どうしようあたし・・・」
「どうしたんだよ」
あたしの先ほどの絶叫はついさっきまでのこの部屋の楽しい雰囲気をぶち壊した。
部屋にはアスラン、ニコル、ディアッカ、そしてあたし。
イザークは隊長の呼び出しとか何とかでさっき部屋を出て行った。
話は少し遡る。
「イザークってアスランの事敵対視してるから今まで実感湧かなかったんだけど、アスランってイザークより一つ年下なんだよね?」
「ああ・・・アイツはなんであんなにも俺の事を敵対視してるんだか・・・」
「年上の癖には大人気無いよね」
「おいおい、お前それが恋人に対して言う言葉かよ」
「失礼ねディアッカ!あたしはイザークのそういう部分も含めて全部好きなのよ、分かる?」
「まぁ・・・分かるよーな分からないよーな・・」
「・・・そうよね、ディアッカが分かるワケないか」
「なんだと!?」
「イザークがアスランを敵対視してるのはさんも関係あるんじゃないですか?」
「え、あたし?」
「お二人が付き合う前はさんとアスランが一言交わすだけでもイザークすごい目つきでしたから」
「やだなぁあたしって愛されてる!」
「やっぱりとばっちり喰うのは俺か・・・」
「まぁまぁ、その原因があたしなんだから誇りに思いなさいよアスラン」
「何を如何誇りに思えってんだよ」
「あんたに言ってないわよ!アスランはディアッカと違って優しいからきっと誇りに思ってくれるわ!」
「お前それ自分勝手すぎないか?」
「ね、誇りに思うよねアスラン?」
「え?」
「思 う よ ね ?」
「え、あ、うん・・・思うよ」
「ほら見ろディアッカ!アスランってば優しいから!」
「・・・それは脅しって言うんだぜ」
「それよりさん、イザークと言えばもうすぐ彼の誕生日ですよね」
「えっ!?」
「もうプレゼントは買ってるんですよね?なにを買ったんですか?」
「たん、じょう・・び?」
「おいおい、まさか忘れてたってワケじゃねーよな?彼女だもんなー」
「ニ、ニコル・・・今って七月じゃなかったっけ?」
「なに言ってんですかさん。もう八月ですよ」
「あああぁぁあ!!」
ディアッカのあたしをからかう声が異様に五月蝿い。
言い訳をするなら、あたしは決して彼の誕生日を忘れていたワケではないのだ。
ただ、買うのと今の日付を忘れてただけで。
って、それは大問題なんだけど。
今は七日の午後でタイムリミットまであと十時間も無いのに。
今更プラントに戻って買いに行くなんて事は不可能だった。
「ど、どうしようディアッカ・・・あたしまだ何も買ってないよ・・・」
「マジかよ」
「マジです」
「如何すんだよ」
「どうしようもないです」
この前プラントに戻った時に買っとけばよかったと後悔するけど、先にたたず。
今ヴェサリウス内にある物で許してもらおうかとも思ったけどイザークの好みは知らないし。
もしかしてあたしってイザークの事なにも知らないのかもしれない。
イザークの誕生日は毎日二十四時間バッチリ覚えてるのに、なんで今日はまだ七月だと思ってたんだろう。
生涯の失点だ。
「あたしまだ七月だと思ってたから何も買ってないの・・・」
さっきまでのテンションは何処へやら、あたしの気分は一気にブルーになった。
「それ、イザークが知ったらショックでしょうねぇ」
「絶対怒るな」
気分がブルーになった途端、ニコルとディアッカからのダブル攻撃。
大ダメージです。
「おい、お前ら止めろよ。だってわざとやったワケじゃないんだ」
「ア、アスラン・・・」
天の助けとは正にこの事。
「・・・とは言っても、今からではどうしようもないよな・・・」
「うん・・・アスランがああ言ってくれたのは嬉しかったけど、やっぱりイザーク怒るだろうし」
「此処は物じゃなくて態度で示したりしたらどうだ?」
「え?」
「例えばえーっと・・・肩揉んだりとか」
「あー、イザーク肩凝ってそうだもんね」
正直そういうのはイザークは喜ぶか分からないけど、物が無いんだったらそうするしかない。
あとは誠心誠意謝って。それでイザークは許してくれるかどうかは分からないけど。
とにかくやるしかない。
「でも誕生日プレゼントが肩揉みだけなんてちょっと寂しすぎるから、他に何が出来る?」
「身体でご奉仕、とかぁ?」
「ばっ・・・!!ディアッカ!!」
せっかくの誕生日を肩揉みだけで済まされるのはいくらなんでもあれだ。
だからと言ってディアッカが言うように身体でご奉仕は・・・うん。それはあたしが厭だ。
「忘れておいてなんだけど、あたしは本当に困ってるんだから冗談言わないで!!」
「だってあのイザークだぜ?そんな簡単に許してくれるんだかなぁ」
「とにかく!やっぱりあたしはあたしなりに考えるから!!」
そう言って部屋を出て行った。
とは言ったけど。
他には何も思いつかなかった。
イザークが許してくれるなら一応は何でもするつもり、だけど。
自室のベッドにごろんと横になり手で顔を覆って考える。
イザークの好きなもの。
好きなもの。・・・民俗学?
民族系の何かをあげれば喜ぶだろうか。
でもそんな物は此処には無いし。プラントにも無いけど。
ああ、あたしは本当にどうしたらいいんだろうか。
考えていると睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった。
「う・・・・」
少し頭痛がするので起きてみたら時計は朝の八時を指していた。
成る程、頭痛は寝すぎた所為か。
少し痛い頭を抑え、あたしはシャワールームへ向かった。
お風呂から出て食堂へ向かうとアスランと会った。
「あ、おはよう。何かいい考えとか浮かんだ?」
「え?いい考えって?」
「だから、イザークへの・・・」
「・・・あ!!」
途端に、全部が頭の中へ入ってきた感じがした。
イザークの誕生日プレゼントを買ってなかった事。
そして彼の誕生日が今日だという事。
「あ、あ・・・・あ・・・」
「・・・もしかして考えてなかった、とか?」
「イ、イエース・・・」
「・・・・・・」
あちゃーと言わんばかりのアスランの顔。
見るからにテンションが低いあたし。
・・・最悪だった。
もっと最悪だったのは。
「あ・・・イ、イザーク!おはよ!」
「ああ・・・か」
「イザークって今日誕生日だよね!おめでとう!十七歳かな!?」
廊下でアスランと一緒にいると、ばったりとイザークと出会ってしまった。
あたし一人だけならまだしも、隣にはアスラン。
うわ。最悪。
イザークの顔が笑ってても笑ってません。
「そ、そうだ。今日はそんなイザークの為にあたしが肩を揉んで差し上げます!
アスラン先に行ってて!じゃ、あたしとイザークは部屋に行くから」
「おい、?」
「ほ、ほら行くよイザーク」
半ば強引にあたしはイザークの背中を押しながら彼の部屋に向かった。
ディアッカはもう部屋を出て行ったようだ。
「わ、わー。イザークってやっぱり結構肩凝ってるんだね」
「誰かさんの所為で苦労するからな」
「それってもしかしなくてもあたしでしょうか?」
「貴様以外に誰がいるんだ」
「・・・ディアッカとか」
「ああ、そう言えば奴もそうだな」
会話が途切れて厭な沈黙が流れる。
それでもあたしは出来るだけプレゼントの事とかには触れず、イザークの肩を揉み続ける。
「あー。イザークの肩揉みすぎてあたしが肩凝ってきたよ。揉んでー」
「貴様が言ったんだろうが」
「そ、そうだけど」
実はそんな事がプレゼントだったんですーなんて言ったら確実に怒るかもしれない。
いや、でもプレゼントってのは形じゃなくて心だし。
正直に言ったら許して貰えるかも。
「あ、あのですねイザーク」
「なんだいきなり。気持ち悪い」
「(気持ち悪い・・!?)こ、この肩揉みがあたしからの誕生日プレゼントでっす☆」
「は?」
「・・・えへ」
初めは驚いたような顔で、次は子供のように拗ねた顔になっていくイザーク。
おお、これは結構面白い。
じゃなくて。
「イ・・・イザークの誕生日事態はバッチリ覚えてたのね!だけど・・」
「・・・・・」
「あ、あたし昨日までまだ七月だと思ってたのです」
「・・・はぁ?」
「だからまだまだ先だと思ってプレゼントを買い損ねたのです」
「貴様・・・馬鹿か」
「だ、だからね!!昨日部屋にある物でイザークが喜びそうな物は無いかと思って探してたんだけど・・・」
イザークの好みとか聞いた事も無ければ質問した事も無かった。
こんなの彼女失格だ。
「イザークの好み全然分かんなくて・・・あたしってイザークの事なにも知らないんだと思って・・・」
自然に、あたしは頭をイザークの背に当てた。
涙が流れるような感触が頬に伝う。
「すごく・・・情けなくってこんな事しか出来なかったの・・・」
「・・・」
あたしからは見えなかったけど、なんとなくイザークがこっちを振り向いている気がした。
なんとなくだけど。
「俺は別に・・・形ある物じゃなくていい」
「・・・う、ん・・・」
「がしてくれるのならば、な」
「本・・当?」
「ああ。でもやっぱり・・・」
「・・・え?」
世界が反転。
と言うか、あたしが反転。
背中にはイザークのベッド、両手はしっかりとイザークに握られて。
更に、上にはイザーク。
「やっぱりコレじゃないとな」
「えっ・・・イ、イザーク、さん?」
「俺の誕生日だ。たまには俺の言う事も聞け」
「ま、毎日聞いてるじゃない!!」
「さぁ?知らんな」
「ちょっ・・・だ、だーれーかー!!」
「プレゼント買い忘れた罰だ」
「ひぃぃぃ!!」
なんで朝からこうなるの?とか。
プレゼントの事は誤ったじゃないとか。
そんな事は全部忘れてしまいそうなぐらいに、あたしはイザークに抱かれた。
自身を持って実感したのは、イザークの誕生日はきちんとしなければいけないという事だった。
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あとがき(言い訳)
なんでいつも相手はちょこっとしか出てこないんだろう。
いや 本気で思う
修行だ修行ー
イザーク誕生日おめでとう!!私と微妙に誕生日近いよ!!
おめでとう!!
HAPPY BIRTHDAY!!!!
私は彼の誕生日は一日たりとも忘れた事はありません!
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