あなたに逢えたそれだけでよかった 世界が光に満ちた。



愛されたいと願ってしまった 世界が表情を変えた。






















































今年も終わりに近づくとあたしは憂鬱になる。

クリスマスムード一色で彩られる街は、今はあたしを囃したてる一部にしか見えない。
その街並みを見て喜ぶ子供の声を聞くとあたしは少し胸が痛んだ。

なんて純粋な声なんだろう、と。

純粋だ、あまりにも純粋だ。
あたしにもあんな頃があったんだろうか。




あたしには生まれてから小学校中学年までの記憶が無い。
あるのはユンを好きになってからの記憶だ。

遅い物心がつき始めたかと思ったら、それからの記憶は胸がずきずきと痛む毎日でしかなかった。

あたしは毎日顔を合わせていたユンが好きだったからだ。



でも、それはいけない事だった。

だって、ユンは従兄弟だから。
それに、ユンには好きな人が居たから。
ユンが住んでるのは遠い遠い韓国だから。
韓国には、ユンの好きな人が居たから。

だから、あたしの胸は今でも痛み続けている。




ユンは年末になると毎年あたしの家に遊びに来る。

理由は、年末になると韓国でやってるサッカーの練習が休みだからだ。
だから、その休みを利用してここ数年あたしのお兄ちゃんとサッカーをしに来るんだ。





今年もその時期が近づいてきた。


あたしの胸は酷く痛んだ。










「へー、はクリスマス彼氏と過ごすんだ?」

「うん!あたしやっと今年こそクリスマスは一人じゃないと思って安心しちゃった」

「いいねーは」

だってこの前告られてたのにふっちゃうからいけないんだよー」

「言われてみればそうかもね」



そんな話をして喜ぶを見て、あたしは純粋に羨ましいと思った。

は相手が本気で好きで、相手もを本気で好きだ。相思相愛。
そんな関係がすごく羨ましかった。
あたしの好きな人もまたあたしを好きでいてくれる事なんてのはきっと無い事だと思うから。
あたしが持っていないものを持っているが羨ましかった。



「あっ、あたし彼氏と約束してるんだった!ごめん、悪いけどばいばいっ!」

「ばいばーい」



急に彼氏との約束を思い出したは、あたしの前から足早に去っていった。

隣にあった空気が無くなるのは少し寂しいと思った。
あたしの隣には、ユンが居てくれたらいいのに・・・とも思った。



一人で華やかな街をぶらぶらと歩いてるのも寂しいし、さっさと帰ろうかなと思った。
でも何を思ったのか、たまたま視界に入った本屋に入ってしまった。



本屋に並べてある雑誌を見たらどれもクリスマスの事ばかりだったから読む前に見飽きた感じがあった。

どうせあたしにはクリスマスなんて関係無い。
あたしにはクリスマス隣に居てくれる人も居ない。
居てほしい人は遠い韓国に居る。
そしてその彼はクリスマスはきっと去年から付き合ってた彼女と過ごすんだろう。



ふと気に留まった雑誌の内容は、『遠距離恋愛を成立させる方法!!』だった。

遠距離・・・だよね、日本と韓国だし。
でもユンは従兄弟だ。
それにユンには少なくとも数ヶ月前には可愛い可愛い彼女が居た。プリクラを見せてもらったら二人とも幸せそうで悔しかった。
いいんじゃないの、美男美女カップル。そうユンに言った記憶がある。

どうしよう。
これは買おうか買うまいか悩む。

悩んだ挙句、買ってしまった。


どうせあたしは一人身だ。
家に帰ってこの雑誌でも読んで気を紛らわしたらいいさ。
そしてきっと叶わない恋をしてる相手の事でも思ってるのがお似合いだ。




















「あ・・・・れ・・?」



家に着いたら、あたしは家に入れなかった。
ガチャガチャと音を鳴らすドアノブを何回捻っても、行く手を阻むドアはあたしを家の中に入れてくれはしなかった。

何故か、鍵が掛かっていたのだ。
家の中には誰も居ない。

あたしは自分の家の前で呆然と立ち尽くした。

家の鍵なんて持ち歩いて無いので、十二月の肌寒い空気の中誰かが帰ってくるまで待っとかなければいけないと思うと寒気がした。

なんでこの時間お母さんが出かけてるんだろう。
お兄ちゃんが帰ってくるのはいつ頃だろう。あ、今日は友達の家に遊びに行くからって言ってたような。
お父さんはどうせ帰ってくるのは夜遅くだ。
なんで、なんでお母さんが居ないんだろう。

お母さんは働いてない筈だ。俗に言う専業主婦な筈だ。
習い事もしていない。『今日○○に行くから』とも聞いていない。

じゃあ、なんで今あたしの家は留守なんだろう。



沢山の事が高速で頭の中をぐるぐると回っていると、背中の方から能天気な声が聞こえた。




「あれ、?どうしたのこんな所に突っ立って」


呼ばれたので反射的に後ろを振り向いたら、愛しい愛しいあの人が立っていた。
ユンがあたしの後ろに居た。



これは、幻なんだと思った。



「ゆ・・・・ユン・・・・?なんで・・・」

「あ、!ごめん鍵掛けて行って!すぐ開けるから!」

「お、お母さん・・・!?」



目の前で起きてる事を理解するのが少し不可能な状況だった。

十二月の半分と少しが過ぎた今日にユンが此処に居る事。
そして何故かユンと一緒にお母さんが居る事。
数学のように、何と何を足せばイコールでこの状況に結びつく事が出来るのか考える事は無理だった。



さっきまであたしの行く手を阻んでいたドアが開いて、その中にお母さんとユンは入っていった。
何してるの、早く入りなよとあたしの家なのに何故かユンに言われたから、あたしはやっと自分の家に入れた。




「あ、あのさ・・・あたしこの状況をよく理解出来る脳味噌持ち合わせてないのですが・・」

「え?なに言ってるの、

「だから、今なんで此処にユンが居るのかが分からないの」

「ああ、ユンちゃんね!今日と英士が学校に行ってから急に日本に来るって電話があってね。
 だから急いで空港に迎えに行ってたのよ。鍵掛けて行ってごめんなさいね」

「いや・・・ユン、学校は?だってまだ冬休みじゃないよ」

「学校の創立記念日とかが偶然に重なったから来ちゃった!」

「『来ちゃった!』とか乙女に言われても・・・」




急に来られたら困るよ、とは流石に言えなかった。

お兄ちゃんはともかく、あたしは準備がまだ不完全だったのだ。
心の準備が。


玄関で話すのもあれでしょう、とお母さんが言ったのであたし達はリビングへ向かった。

リビングのテーブルの上に、ユンがお土産に持って来てくれた自家製のキムチが置かれた。
ユンのとこのキムチはすごく美味しい。だからそのお土産は家族中が喜ぶものだった。

少しつまみ食いしてみたら、何年経っても変わらないその味にすこし安心するものがあった。
昔と比べてユンは変わったから、味も変わったかもしれないって。でも違った。だから安心した。


少ししてからあたしはユンにごゆっくり、とだけ言って自分の部屋へ行った。
早く買った雑誌が読みたかったし、何よりもユンとずっと顔を合わせているとおかしくなりそうだったからだ。

階段を上って部屋に入ると、少しほっとした。

そのままベッドにダイブして、鞄の中から雑誌を取り出してぱら・・と捲った。


遠距離恋愛特集のページを見ていると、あたしの部屋へ向かう足音が聞こえたのでなんとなくこの雑誌を枕の下に隠した。
数秒経ってからドアがコンコンと二回ノックされて開いた。入ってきたのはユンだった。
雑誌を隠して正解だった。
遠距離恋愛なんて文字を見られたらバレてしまう。



「どうしたのユン」

「なんか今日のの様子いつもと違ったから」

「別にあたしはいつも通りだよ。心配してくれてたの?」

「うん、ちょっと」

「んー・・強いて言えば、普通に学校から帰ってきたらユンが居たから吃驚しただけだから」

「あ、僕の所為?」

「ちょっとそう」


ユンにそう言ったらユンは少し沈んだ顔をしたので、ごめん嘘、と訂正の言葉をかけた。
あたしは体制を立て直してベッドに座って、目の前で立っているユンと向き合う形となった。


「それにしても今年ユンが来るの早かったね。いつもはクリスマス辺りに来るのに」

「今年のクリスマスは彼女と過ごすって約束しちゃったからねー・・・だから今年はあんまり英士とサッカー出来ないや」

「・・・彼女と上手くいってるんだ?」

「まあ、大体はね」


プリクラ見る?って言われたので見せてもらったら、相変わらず幸せそうな顔をしたユンとその彼女が写っていた。
正直な所破いてやりたい気持ちだったけど、それは本人の前では問題だと思ったから止めた。

二人の幸せそうな顔は、同時にあたしの不幸を物語っている。

一つの幸せはいくらかの不幸を犠牲に成り立っているものだと痛感した。



「彼女、美人だね」

「そうでしょー?」

「お幸せにね」

「ありがとー」



人はここまで思ってもない事が言えて、偽りの笑顔が作れるんだなあと思った。すごい生き物だ。

目の奥が熱い。涙が零れそうだった。

早くユンに何処かへ行ってほしい。

じゃないとユンに泣いてる所を見られてしまう。

それだけは、厭だった。



「うっ・・・あ・・・ぁ・・ふぇっ・・・」

?」

「ユン・・・どっか・・行って・・・」

「どうしたの!?僕何かした!?」

「何にもしてないよ・・・お願いだから・・・行って・・・」



何処かへ行ってと言っても行ってくれない。
なにもしてないユンに酷い言葉を吐いたあたしを心配してくれる、その優しさが痛い。

だから一刻も早くあたしの前から居なくなってほしかった。
彼女の所にでも何処にでも行ってほしかった。
とにかく、あたしの目の前からは居なくなってほしかった。



やっぱり、彼女の所には行ってほしくなかった。




・・・僕、何か悪いことしたなら謝るし、何でもするから・・・泣くの止めて?」

「ユンには・・出来ないよ・・・あたしのお願いを聞く事は・・・」

「聞けるよ。だっては僕の大切な人なんだから」

「・・・っ・・・ぅ・・・」


『大切な人』というのはどういう意味なのか、あたしには分からなかった。

でもきっと家族、妹みたいな感情の『大切な人』なんだという事は察しがついた。
ユンは決してあたしを恋愛対象として見てくれないだろうから。

きっとこのプリクラに写ってる人が恋愛対象の『大切な人』なんだろう。


ユンの彼女なんて存在しなければいいと思った。
ユンが韓国じゃなくて日本に住んでいたなら。
それならユンは、あたしを好きになってくれた?


黒い感情とその他がごちゃまぜになりながらも、あたしはユンに言った。













ただ其処に一握り残った想いを すくい上げて心の隅に置いて


冷たい水をください 出来たら愛してください。













人が生きるうえで水は必要不可欠なもの。

ユンはあたしが生きるうえで必要不可欠だから。



































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あとがき(言い訳)

なんか、ポルノ好きすぎてついにやっちまったい!な感じです。
なかでも何時まで経ってもアゲハ蝶は大好きです・・!ポルノの曲は全部大好きなのですが!
アゲハ蝶聞いてたらふと思いついたネタです。
そのまま抜粋したら少し不自然な所はちょっとだけアレンジしてしまいました・・・!すみません
ハッピーエンドに終わらない話は好きです(笑)
ちなみにヒロインはえーしの妹だったりします




















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