クラスが違うというのは、大きな障壁だと思った。

あたしは彼を一番理解していたつもりで、実は全然出来ていなかった。
彼の心の支えになってあげる事も出来なかった。

何かが途切れてしまったあたしは、まるであたしじゃないような感覚に陥った。
時々不安で押し潰されそうになる。
今度は武じゃなくて、あたしが壊れてしまいそうだった。



























TEAR'S DROPS
























武が自殺しようとした事は紛れも無い事実だった。

どうしてそうしようと思ったかという事も聞いている。
あたしはそれに共感出来た。
うん、そうだね、それはとても辛かったんだね、って言ってあげた。
理由はとても武らしい理由だった。だからあたしもそれを受け入れた。

ただ、あたしは武の彼女でありながらも彼の心の支えになっていなかった事だけは分かった。

武が自分で自身を殺そうとするまであたしは彼の異変に気付いてあげる事も出来なかったし、武も何も言ってこなかった。
それはお互いに隙間があったからなんだろう。
武の悩みは武の友達に、あたしの悩みはあたしの友達に相談する方が良いと思ってるのかもしれない。
あたしはそれが悲しくてならなかった。
あたしなら、彼の友達とはまた別の形でその悩みを受け止めてあげる事が出来たと思う。自意識過剰かもしれないけど。
でも、武はあたしにそれを言ってこなかった。あたしも気が付かなかった。

何がなんだか、分からなくなった。




「・・・武はあたしに何も言ってこなかったんだもん。あたしもそれに気付いてあげられなかった。・・・彼女失格かなあ」

「違うよ、。山本君はに心配かけたくないんだと思うよ、あたしは」

「それでも、あたしは相談してほしかった。あたしには何でもぶつけてほしかった。武の支えになってあげたかった」

「・・・うん。でも、結局は今も何時も通り普通に生活してるんだしさ。それでよかったじゃん」

「武の支えになってあげたのはあたしじゃないよ。沢田君だもん。・・・あたしは、武の支えにも光にもなってあげられないと思われてるんだよ」


聞いた話によれば、武は彼と同じクラスの沢田君に心を動かされたからもう一度生きようと思ったらしい。
聞いた話によれば。
もし、あたしが武と同じクラスだったなら武はあたしの言葉に心を動かされるような事があったのだろうか。
もし無ければ、無理矢理にでも心を動かしてたと思う。
同じクラスなら、彼と居る時間が一秒でも長かったなら、あたしは彼の異変に気が付けたかもしれない。

違うクラスだという事実が、障壁だった。
それが、酷くもどかしく感じられた。

でも、自分が気が付けなかったのは違うクラスだから、と言って言い訳をしている内は自分でも彼女失格だと思った。


「武にはね、頼りにされたいの。誰よりも。それが『あたしは武の支えになってる』って事が実態になってる気がするから」

「男同士でしか相談出来ない悩みだってあるじゃん?あたし達だってそうだし。だからが思い詰める必要なんて無いよ」

「うん、そうだね。・・・でも、自殺しようとまで思い詰めるような事なんだったら彼女のあたしに相談してほしかったな・・・」


あたしは男じゃないけど、武の事なら他の誰よりも理解しているつもりだったから。
だから彼の理由に共感が出来た。
だったら彼の悩みには親身になって答えてあげる事も出来た。
その事実は、あたしは武を理解出来ていなくて、彼もまたあたしを理解出来ていなかったんだと思う。


武が自殺しようとしてから数日経った今日でも、あたしの心は蝕まれるばかりだった。

今思えば、はあたしより武を理解している気がする。
武の彼女という地位は、あたしよりの方が相応しいのかもしれない。


「まあ、がそんなに思い詰めてるならその事を思い切って山本本人に言ってみたらどう?気分が晴れるかもよ?」

「そんな事言う勇気なんて無いよ・・・。言ったら嫌われるかもしれない・・・」

「そこで終わるようなんだったら、結局はそこまでだったって事だよ。ほら、今日にでも言ってみたらいいよ」


そう言ってぽん、とあたしの背中を軽く押したは笑顔だった。
明日のあたしは彼女のような笑顔が出来るんだろうか。















さっきまで見せていた綺麗なオレンジの太陽は既に沈み、それが冬の訪れを感じさせた。

マフラーをしても手袋をしても、直に肌を晒している顔は冷たかった。
それでも何処か暖かいのは、あたしの隣に武が居るからだと思いたい。

放課後、部活の後に一緒に帰る時は一日の中で一番幸せな瞬間だ。
武は何時も楽しそうに今日あった事や部活の事を話していて、あたしも笑顔でそれに相槌をうつ。

彼の幸せそうな顔を見るだけであたしの心がいっぱいになるのは、あたしが心底武を愛してるからだろう。


「武は今幸せ?」

「ああ、幸せ」

「なんで?」

「隣にが居るから」


さらりと恥ずかしい事も平気で言う武の言葉に、あたしは顔が赤くなって胸がどきどきしている。
武もそうなんだろうか。
平気なフリして言ってるけど、心の中はどうなんだろう。

出来たら、あたしと一緒であってほしいと思うのは決して我侭じゃないでしょう?


「・・・あたしって、ちゃんと武の支えになってあげられてるかな」

「なってるよ。だから俺は幸せだし、何時でも隣にが居てほしいと思う」

「本当に?」

「本当に」


何を不安がってるんだよ、は、と言われたので胸がズキリと呻いた。
相手が好きだからこそ言えない事だってたくさんある事は分かってる。それは武もあたしも同じ立場だからお互い共感出来てると思う。
だけどね、それでも自分には何でも言ってほしいと思う気持ちがあるって事を理解してもらいたかった。


「あたしはね、武にはなんでも話してほしいんだよ」

「ああ」

「あたしは、それを全部受け止めて武の安らげる存在でありたいの」

「ああ」

「だから、武はあたしにはなんでもぶつけてほしいの。良い事も、悪い事も、なんでも。あたしにはそれを受け止める自身があるから」

「・・・ああ」

「・・・だからね、どうか一人で抱え込まないで、あたしにぶつけてくれたら良いと思う。この前みたいに、一人で思い詰めないで」


あたしは俯いて言ったから、武の表情を確認する事は出来なかった。
でも、声色はとても優しいものだった。
武も、あたしのそんな我侭な願いを受け止めてくれてるんだろうか。


「・・・あたしね、時々すごく不安になるの。あたしは武の支えになってあげれてないんじゃないかって」

・・・」

「だから、あたし武が自殺しようとした時すごく悲しかったし・・・自分がすごく、情けなかったの」


言い終わりかけた時、あたしの目からは涙がぽろぽろと零れ落ちた。
泣き顔なんて見られたくないから、あたしは更に下を向いた。


「ちょっ・・・、泣くなって!」


武があたしの涙を拭おうとしたけど、涙は止まるどころか更に頬を伝った。


「あたしには武の悩みを気付いてあげられる事は出来なかった・・・だから、ずっと彼女失格だと思ってた・・・」

「そんな事、ねぇよ・・・」


武はあたしの顔を見ようとはせずに、只あたしの頭を静かに優しく撫でた。
それは武の優しさであり、武のとても良い所だと思う。
そんな彼にあたしは惹かれた。
今では彼の全てが好きで、彼無しでは生きていけないような体質になるまで。

そんな彼が先日、突然あたしの前から姿を消そうとした事件を起こした。

もしあの時沢田君が駆けつけなかったら武はどうなっていたんだろう。
それが沢田君じゃなくてあたしだったとしても、武は思い直してもう一度生きようと思ってくれただろうか。
あたしにそんな力があるかなんて、自分でも分からない。

あの時武がもし死んでいたら、あたしの前から突然姿を消したら、あたしはどうなっていたんだろう。

あたしも武の後を追って自分で自身を殺していたのだろうか。


そう思うと、とても怖くなる。

あたしもまた自殺していたかもしれないという事じゃなくて、本当に武が自殺していたかもしれないと思ったら。




「あたしは・・・武の事、全部を理解出来ないかもしれない・・・」

「・・・ああ」

「もしもあたしが武の痛みを気付いてあげる事が出来なかったらね・・・その時は、武から言ってきてほしいの。じゃないと、分からないよ・・・」

「・・・ごめんな、


流れ出る自分の涙は生暖かくて、冷えた肌に触れて少し寒気がした。

武は相変わらずその涙を拭ってくれていて、その手を離したかと思ったら今度は優しく抱きしめてくれていた。


「・・・っ、たけ、し・・・」


武の体温で温まった顔は、涙の温度と一体化してるような感じだった。




「もっと・・・もっと、あたしを頼りにしてよぉ・・・・・・っ!!」




本当は、泣きたいのはあたしより武の方かもしれない。

でも、武は泣かないからあたしが代わりに泣いてると言っても良い?
あたしはまだ、武の全部を受け止める器としては未熟だと分かったから。
だから、せめて代わりに泣くくらいは。




「・・・心配かけてごめんな。これからは、俺がを受け止める役になるから、さ・・・」




武は、そっとあたしの手を握った。































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あとがき(言い訳)

標的5ではこんな裏があっても良いんじゃないかと思いまして・・・
山本とても好きです でもこのもっさん偽者くさくて申し訳ないです・・・
あと、色々と悩むヒロインが書けたので満足です。まだまだ未熟です、が!