等身大のラブソング
日直の仕事というのは酷く面倒くさくておまけにつまらないものだった。
欠席者の点検、日誌の提出、授業の前後の号令その他諸々・・・
おまけに二人一組なのに今日は相方がお休みであたし一人で当番。
くそう、薄情な奴め!
二人分の仕事を一人で、しかもこんなか弱い乙女がするもんだから放課後までかかってしまった。
あーあ、今日は見たいドラマの再放送あったのに。
まったく、ツイてない。
もう日も暮れ始めてるし。
「・・・あ!」
と、思ったらツイてる出来事発見。
たまたま普段通らない通学路で、スーパーの前を通って帰ってたら、そしたら。
「柿ピー!!」
「・・・?」
マイラヴァー(自称)・柿本千種がなんと晩ご飯の買出しに来ていました!
これはもう運命?
サンキュー日直の仕事!あたし頑張ります!
すすすっと音も立てずに素早く柿ピーの隣まで駆け寄って彼が持っていたスーパーの袋を一つ奪う。
突然の出来事に柿ピーは唖然としていたけれど、運命とは突然なものなんだよ、うん!
何だかすっげぇ一番会いたくない奴に会っちまった!みたいな表情されてますが気にしません。
「柿ピーが晩ご飯の買出し?わー、なんか意外!生活感が滲み出てるよ」
「・・・なんで袋片方持つの」
「まーまー、これはあたしの良心というやつですよ。途中まで手伝ってあげようじゃないか」
「別に頼んでないんだけど」
「いーのいーの!」
何時も何時も柿ピーが買い出しに来てる訳じゃないだろうから、他の二人もこのスーパーに来たりするのかな。
犬ならともかく、骸さんがスーパーのレジに並んでるところを想像するとかなり笑えます。
一人で想像して笑ってると、柿ピーに距離を取られました。軽くショック!
「材料的に見ると、今日はすき焼き?」
「犬が食べたいって言ったから・・・」
でも、すき焼きってした事が無いからよく分からない、と柿ピーが言ったのであたしが美味しい食べ方を教えた。
「まずね、別の皿に生卵を溶いて入れます」
「・・・不味そうなんだけど」
「そこに肉を入れて絡めて食べると最高に美味しいんだよ、これが!」
「ふーん・・・」
あたしの家と彼等のアジトへの分かれ道。
そこへ着くまで他愛の無い話をしながらあたし達は足を進めていた。
「あたしには、とても柿ピーたちが脱獄囚のようには見えないわけよ」
「そう?」
「だって、柿ピーも犬も骸さんも、喧嘩は強いけど優しいから」
「・・・そんな事はないと思うけど」
「そんな事あるよ。だって、あたしは三人のそういうところが好きだから。・・・柿ピーは?」
「・・・?」
「柿ピーは、あたしの事どう思う?」
あたしは柿ピーの顔を下から少し覗き込む。
これ、あたしの精一杯の告白なんだけどな、気付いてくれるかなあ。
・・・気付かなさそうだけど。
「は・・・嫌いじゃ、ない」
柿ピーはボソリと小さく、それでも確実にあたしの耳に届くように言った。
それが、すごく嬉しかった。
「え・・・嫌いじゃないって、『お前なんか嫌い通り越して大嫌いレベルだよ!』とか、そういう事?」
「ち、違・・・」
「えへへ、嘘だよ、有難う」
「・・・・・」
少し冗談を言ったら睨まれた。
でも、その柿ピーの眼鏡越しの瞳はとても温かかった。
そしてあっという間に分かれ道にたどり着く。
普段、一人で歩いていたらこんなにも短く感じたりはしないのに。
「・・・、行かないの?」
「・・・帰りたくない・・・なんちゃって」
「じゃあ、も来たら良い」
「えっ!?」
そう言うと、柿ピーはあたしの目の前をスタスタと歩いて行った。
だからあたしも彼の背中を追って小走りに近寄る。
「え、いいの?あたしが行っても」
「・・・二人が良いって言ったらね。まあ、言うだろうけど」
「わー、すっごい嬉しい!どういう風の吹き回し?」
「・・・美味しい食べ方、実際にやってくれないと分からないから」
「あはは、そっか!ありがとー」
柿ピーは廃墟の中のコンクリートの山やガラクタの上を器用に踏んで進んでいく。
慣れないあたしは度々こけそうになるけど、その度柿ピーが手を引いてくれる。
本当、優しいなあ。
そういうところが、あたしを余計柿ピーの世界へ引き込んでいくんだからさ。
「おや、じゃないですか」
「っひゃー、柿ピーなに連れて来てんのさ!」
「途中で柿ピーに会ったんで、本日はすき焼きご一緒させて頂きます!」
「ああ、そうですか。が来たら楽しくなりますね」
骸さんたちが居たのは三階だった。
元々映画館だったその広い空間に、何故かご丁寧にこたつが用意されていた。
骸さんの提案かな。なんだか不思議な光景だ。
「・・・が、美味しい食べ方教えてくれるって」
「あ、柿ピー、あたしが作ろうか?」
「別に・・・いい。作り方は、知ってるから」
「そっか」
そう言って、柿ピーは材料を持って何処かへ姿を消した。
キッチンかなあ、と思ったけど此処にはキッチンがあるのだろうか。
新たな疑問が浮かんできた。
が、そこで、と呼ばれたのであたしははっと我に返った。
「」
「なんですか、骸さん」
「千種と、なにかありましたか?」
この人にはなんでもお見通しなのだろうか。
別に大した事は無かったけれど、あたしは少しどきっとした。
「・・・あったんですね」
「い、いや、別に骸さんが思ってるような大した事は何も」
「千種を相手にするとは・・・貴女も強いですね」
「あはは、それは誉め言葉として受け取って良いですか?」
「僕なら何時でもフリーですよ?」
「いえ、それは遠慮しておきます」
さり気なく肩に手を回されたのであたしは作り笑顔で誤魔化して少しだけ距離をとった。
この人からはオールウェイズ変態オーラ醸し出されてます。
黙っていたら今度は腰に手が伸びてきたので思わず肘打ちをしてしまった。
ちょっと、危うくセクハラされそうになりましたよ。
そんな事をしていたら、柿ピーが戻って来た。
「・・・、出来たけど」
「おお、柿ピー早い!」
この人たちはすき焼きというものが初めてらしく(じゃあ何で犬が知ってるんだろう)
あたしが目の前で卵を溶いて絡ませているのを興味津々で見ていた。
卵にはこんな活用法があるんですね、と骸さんらしくない発言を聞いて、あたしは少し笑った。
この幸せが、何時までも続けば良いのにな。
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あとがき(言い訳)
柿ピー書けないですね
やっぱり骸さんが一番書きやすい。