雨の日に出歩いていたのは本当に偶然だった。


朝は快晴で夕立なんかするなんて夢にも思わない天気だったけど、天気予報士を信じて正解だった。



あたしは鞄の奥に入れておいた折り畳み傘を広げて再び買出しに走った。





























                   捨 て 猫



























「・・・うわ」



其れを見た第一声が此れだ。


雨に打たれてふにゃふにゃになった段ボール箱。

中には生まれてからそれほど月日が経ってないだろうと思われる仔猫が。



捨てられていた。





雨に打たれて寒いのか、身体は震えていた。

まだこんなに小さいのに風邪でもひいたらどうするんだと思ってあたしは仔猫の上に傘を広げて置いた。





「可哀想に・・・お前捨てられたんだね?」


喋りかけても反応が無いのは当たり前だが。
無意識に言葉が出た。


「とにかく・・・屯所に連れて行きますか」


生憎あたしの家はマンションだからペットは飼えないのだ。

でも、屯所なら。
屯所なら優しい人もいっぱい居るし、誰かが飼ってくれるかもしれない。



そう胸に期待を抱いてあたしは段ボール箱から仔猫を抱き上げて屯所へ向かう足を早めた。



























「・・・で、俺にどうしろって言うんだよ」

「だから、誰か飼ってあげて下さいよ。頼みますよ土方さん」




あたしの所属する真選組の副長、土方さんはその仔猫を見ながらそう言った。


濡れていた毛はタオルで拭いたため、今は先ほどよりは元気になったようだ。
おまけにホットミルクまで飲んでいる。贅沢な奴だ。



「あたしの家マンションだから飼えないんです。だから誰か飼ってあげて下さい」

「んな事俺に言われてもな・・・適当に呼びかけとけよ」


土方さんはしゃがんでいた身体を起こして仕事に戻った。
仔猫はみー、という甘い声を出して土方さんの足に頬擦りする。


「・・・土方さんって案外薄情者だったんですね」

「んだとコラ?俺だってみてーにそれなりの理由があんだよ」

「無かったら飼ってくれてたんですか?」

「まあ一応は、な」



確かに家の事情とかだったら仕方ないよなぁとか思って再び仔猫を抱き上げる。


自分が捨てられたとも理解出来ずにただ前を見つめる純粋な瞳を見ると、少し哀しくなった。

あたしの家がマンションじゃなかったら飼ってあげれたのに。
せめてペットOKなマンションにしとけばよかったと思った。
まあその辺はお金の問題だけど。




「あー、誰か飼っておくれよー。このままじゃこの子可哀想じゃん」


今更だけど、捨て猫の割には人見知りが激しくなかった。
この歳にしてはちょっと珍しいんじゃないか?



「あれ、さんじゃないですかィ。雨の中買出し大変でしたねェ」

「あ、総悟君。ただいま。総悟君から頼まれたのも買ってきたよ」

「どうも感謝いたしやす・・・って、その仔猫どうしたんですかィ?」

「ああ、拾ったの。雨に打たれてたから」

さんって意外に優しいんですねェ」

「ちょっと、それ失礼」



総悟君の発言にムッとしながらも、あたしは袋の中から総悟君に頼まれてた物を渡した。



「それでさー、総悟君。今この子の飼い主募集してるんだよ。あたしはマンションだから飼えないし」

「そうですねー。俺の家も猫嫌いが居て多分無理だと思いまさァ」

「この雨の中返すの可哀想だよ。どうにかして早い所飼い主見つけなきゃ」



雨の中たった一匹で居て。
こんな小さいのにお母さんと離れて。
可哀想に。


「身内に引き渡すとか・・・出来なかったのかなぁ」


この子を捨てた前の飼い主の身内にでも渡っていたら、少なくとも今よりは幸せだっただろうに。

都会は仕方ないのかなぁ。
捨て犬や捨て猫は社会問題になってるし。




「失礼します、副長!」


雰囲気をかち割るかのような陽気な声で部屋に入ってきたのは山崎だった。


「あ、山崎!丁度良い所に!」

さん?」


あたしは手招きで山崎を此方へ呼んだ。

あたしと総悟君の近くへ歩み寄ってきた山崎は、やっぱりと言うか、総悟君と同じ反応をした。



「ど、どうしたんですかこの仔猫?」

「捨てられてたから拾ってきたの。雨の中可哀想だったから」

「はぁ・・・」



山崎は少しの間仔猫をまじまじと見つめた。

その間コイツは猫ってのを見た事が無いのか?と思うぐらい眺めていた。



「誰かこの猫飼ってくれないかなあ・・・」



無意識にそう呟くほど、あたしは悩んでいた。

何しろ拾ってきたのは自分だし。
あたしにもそれなりの責任感があった。




「あ、さん」

「ん?」


急に山崎が何か思いたったように人差し指を立てて言った。



「この猫、屯所で飼ったらどうですか?」

「・・・あ」


そうか、その手が。

と思ってあたしはポンと手を叩いた。


「す、すごい、山崎頭良い!!」

「いや、別にそんな事はないですけど・・・」

「うん!そうだね!あたし土方さんにお願いしてみるよ!」




屯所で皆で飼うのならいけるかもしれない。












「駄目だ」

「は?」

「駄目だって言ってるんだよ、一回で聞き取れや」

「いや、聞き取ってますけど」



山崎が提案した事を土方さんに言うと、即座に否定された。


「いや、あの、何でですか?理由言って下さいよ」

「屯所の主人は俺じゃねーんだよ。言うなら近藤さんに言え」

「あ、そっか」

「それとソイツの餌代とか誰が払うんだよ。が払うんなら俺も考えてやっても良いけどな」

「や、やっぱり土方さん薄情者!!」

「拾ってきたのはだろうが」

「そ、そうですけど」


せっかくの良い案だったのに、と思って少し俯いた。

と、後ろから声がかかった。



「此処でこの猫飼うなら俺は反対しないぞ」

「きょ、局長・・・!!」


後ろを振り返ると、笑顔で仔猫の頭を撫でている近藤局長の姿があった。



「俺が良いって言ってんだから決まりだな」

「あ、ど、どうもありがとうございます!!」



あたしは未だに笑顔の近藤さんに深々と頭を下げた。

何回も。


「餌代の件についてはそうだな・・・それは皆の給料から割り勘だな」

「は?マジかよ近藤さん」

「トシだってこんな雨の中返しに行く程鬼じゃないだろう」

「・・・分かったよ」

「あ・・・ほ、本当にありがとうございます!」



あたしは再び仔猫に近寄って抱き上げた。



「そうだねー、お前今日からここの一員だもんね。名前付けなきゃ」

「誰が付けるんですかィ?」

「拾ってきたさんでいいんじゃないですか?」

「あ、じゃああたしが付けるね!えーっと・・・」



昔からペットを飼うならこんな名前にしよう、とか色々考えてはいたけど、
いざ本当に名前を決めるとなったらかなり迷う。


その前にこの子は雄だろうか雌だろうか。



「決めた!黒助三号にしよう!」

「・・・え?」

「あれ、聞こえなかった?この子の名前黒助三号だよ?」



なんでか分からないけど、総悟君も山崎もすごく不満そうな顔をしていた。
あたし何か可笑しな事言ったっけ。



「・・・さん、他にもっと名前無いんですかィ?」

「え、何言ってるの総悟君。すごく良い名前だと思うんだけど」

「・・・・・・・」

「三号って・・・一号と二号も居るんですか?」

「え?居ないよ。只かっこいいから付けてみただけ」

「・・・・・・・・・・」




気のせいか、二人の顔は不満と言うより呆れ顔みたいだった。




「あ、晴れてきた!」


窓から光が差し込んだ。
夕方独特の赤い光。



「あ、そうだ総悟君。今日から黒助三号の家は此処なんだし、案内しようよ」

「あー、そうですね。変な所で粗相されたら堪りませんし」



きっと黒助三号は此処を気に入ると思う。

総悟君の優しい笑顔も気に入ると、思う。


































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あとがき(言い訳)

なんでいつもこんな微妙な終わり方なんだろう・・・!
結局あの猫は雄ですか雌ですか・・・私的にはメス。
しかし此れ、総悟君夢じゃない。
一体何夢と言えばいいんだ。ALL・・?にしては少ないしなあ
精進精進
あと、総悟君の家族に猫嫌いが居るのは妄想です。
違ってたらマジですいません