強くあればいいと思う。
人はどんな時でも強くあれ。
だけど、それが簡単には出来ないから人は苦労するのだろう。

本当、なんでかなあ。

昔はこんなにも弱くなかった。寧ろ強かった方だ。
あたしはきっととても弱くなったんだ。























くちびるにうた






















骸さんたちのアジトから眺めるあたしの住む町はとても小さかった。
今日はよく晴れていて、その夕焼けもとても綺麗だった。
あたしの心は晴れるわけでもないのに空は嫌味なほど晴れていた。
いっそ、あたしの気を反映しろ、雨が降ってしまえ。そう思った。



あーあ、泣いてしまいたい。この場で大泣きしてしまいたい。
それが出来たらどれだけ楽なんだろう。
泣くということは本当に都合が良いことだと思う。
気持ちだけでも、晴れさせてくれるから。


「・・・もう、泣けないんだよ」


涙が出てこないの。
そんなあたしが、余計に厭なんだ。
それが余計に悲しみを増幅させている気がする。


「泣いて、楽になりたいよ」


生きていれば少なからず経験することなのに。
あたしだって、これが初めてじゃないはずなのに。


あーあ、どうして空はこんなにも晴れているの。
どうして地球は回っているの。
どうして皆は生活しているの。
どうして、あたしは生きているの。







背後から、骸さんの声がした。
それでもあたしは壊れた窓から外を眺め続けた。




「・・・・・」

「返事をしてください」

「・・・なに?」


返事をしても振り向く気にはならない。
ずっと外ばかりを眺めていたら時間が止まったような錯覚に陥る。
本当に、止まってしまえばいいのに。


「・・・今日はずっと気が沈んでいますね」

「そうかな」

「・・・自覚無しですか。僕でよければ、貴女の相談に乗りますよ」


・・・相談、かあ。
他人に話したらあたしの気は少しは晴れるのだろうか。
一人で抱え込むよりはマシなのかもしれない。
でも、それでもあたしには話す気にはなれない。




「・・・強くありたいと、思っただけ」




肉体的にですかと聞かれたので、そうではないと答えた。
あたしは精神的に強くありたい。
心が強くなれば、きっとこんな事もなくなる。
悲しくなることだって、きっと少なくなる。


だからあたしは思い知らされるんだ、自分がどれだけ弱いのかを。



「弱くては駄目なのですか?」

「うん、駄目なの。悲しくなるから駄目なの」

「弱いと、悲しいですか?」

「悲しいよ、とても」



押されてしまえば一気に崩れてしまう。
雨が降ればすぐに浸食されてしまう。
弱くて、脆い。
悲しい。
今のあたしを繋ぎ止めるものは、一体何処?



は、弱くて良いんですよ」



不意に後ろから抱きしめられた。
暖かくて心地良くて、骸さんの一定した鼓動が聞こえる。
それがなんだかすごく安心した。



「強くあらなければいけないのは、僕のような男だけです」



だから、は強くなくても良い。


あたしを抱きしめている彼の腕の力が少しだけ強くなる。
まるで心を重ね合わせるように、あたしの手を骸さんの腕に重ねる。


心に刺さった棘が落ちていくような。
傷口が少しずつ癒えていくような。
そんな気がした。
骸さんの手はあったかくて、不思議だ。


あたしは彼の腕の中で酷く安心した。

だからやっと、あたしの目からは涙が零れ落ちた。




改めて、骸さんが何かあったのですかとあたしに聞く。

少しだけ躊躇ったけれど、でもあたしは口を開いた。


「・・・骸さんからしたら、本当に小さくて・・・どうでも良いようなことだと思う」

「そんなことはありませんよ。が悲しいことは僕だって悲しい」

「・・・ありがとう」





本当に小さくて、どうしようもないほど小さくて。
あたしが泣こうが喚こうが、空は相変わらず晴れていて。
夜になれば月が照らして星は輝くし、朝が来ればまた太陽が昇る。
人は皆何時もと変わらず生活しているし政治だって行われている。


あたしがどうこうしたって世界は変わったりしない。


その度に、これがどれだけ小さいことなのかを思い知らされる。




「飼っていた猫が昨日・・・死んだの」




そうですか、とだけ言って骸さんはさらに強くあたしを抱きしめた。


涙は全く出なかった。
ただただ、あたしは立ち尽くすばかりで。
黙って、目の前の現実を受け止めるしか出来なかった。



「小学生の頃から飼ってたのに、涙が出てこなかった」



そのことが、余計に悲しかった。
ずっとずっと可愛がってきた。
毎晩のように一緒に寝たりもした。
大好きだった。

それなのに、泣けなかった。

泣かないことが強さだとは思えなかった。
寧ろ弱さなんだと思った。
勇気が無かったんだ、現実を受け止める勇気が。



「だからあたしは、強くありたかった」



あたしの心が強ければきっとすぐに現実を受け止められただろう。
きっとすぐにその場で泣き崩れただろう。ずっと大泣きして、夜まで、ずっと。



「・・・人間というものは、自分以外の生物の死を経験しながら生きているんです」

「・・・そうだね」

「自分が死んだら、それもまた誰かの経験になります」

「・・・うん」

「今は無理矢理に受け止めなくても良いんですよ。それまでは、僕がの側に居ますから」


そう言って骸さんはあたしに軽くキスをした。

あたしの目からはまた涙が溢れた。
昨日流せなかった分の涙が今流れたかのように。

あたしは、骸さんの胸を借りて泣いた。


「・・・骸さんは、何処にも行かないで・・・っ」

「何処にも行きませんよ。僕はずっと、の側に居ますから」



あたしが欲しかったのは強さなんかじゃない。

あたしが本当に欲しかったのは、何処にも行ったりしない愛しい存在だったんだ。





























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あとがき(言い訳)

わー、すっごい骸さん偽者!
なんかもうセリフがくさすぎで泣けてきます