S w e e t V . D
「・・・柿ピー、あたし厭だよ」
昼下がりの屋上は非常に気持ち良い、授業をサボるには打って付けの場所であった。
メンバーは犬、千種、。珍しくリーダーの骸抜きのメンツだ。
彼等の側には空になった弁当箱が放置されている。
突然のの言葉に、名指しをされた千種は面倒くさそうに口を開く。
「・・・なにが」
「今日は恋する乙女の祭典、バレンタインデーだよ」
「そうだっけ・・・で、それがどうかしたの」
「あぁもう分かってないなあ!骸さん超モテるんだよ!そんなの厭だ!!」
あまりに理不尽なの台詞に、他の二人は返す言葉が見つからない。
そこで千種は小さく、あぁ、それで今日チョコ渡してくる人がたくさん居たんだ、と呟く。
「犬もチョコもらったよね?」
「んー、八個もらった!マジ嬉し〜〜〜」
「・・・骸さんがもらってない訳無い・・・よね」
はぁ、とは自分の言った言葉に対して溜め息を吐いた。
「は骸さんにチョコあげないんだ?」
こいつ、地雷踏みやがった!という恐ろしい形相で千種は犬を思いっきり睨んだ。
何も分かってない犬としては、いきなり物凄い形相で睨まれて少しショックを受けている。
犬の発した言葉は、今のにとってブロックワードなのだ。
犬は今度は涙目のに思いっきり睨まれた。
「あたしだって今朝から何度も渡そうとしたよ!!だけど・・・!!」
骸さんの周りにはチョコを渡そうとする女子、女子、女子!
あたしだって果敢に挑んだけどまるでスーパーの安売りの時のようなその勢いには勝てず。
挙句の果てにはその人だかりの中から思いっきり押し飛ばされる始末。
ちょっと待て、仮にもあたし一応骸さんの彼女だよ!?あ、一応って言っちゃった・・・。
同じクラスなのにどうしてこんなにも遠いの!?唯一静まってると言えるのは授業中くらいだよ!
つっても教室では骸さんは窓側であたしは廊下側で正反対だし・・・ううぅ!!
当然、今日なんてまだ一言も喋れてないんだよ!もう女子怖い!!
嗚咽混じりには千種と犬にそう訴えた。
二人はその熱弁の内容よりも、よく息が続くなあという部分に関心する。
「凄いのは分かったけどさ、ちょっとくらい骸さんだって一人になる時あるんじゃないのー?」
「・・・同感。そこを狙えば良いじゃん」
「甘いよ、二人とも・・・。本日の骸さんは男子トイレの前まで親衛隊がお付きです」
「うっわ・・・」
その光景を想像したのか、犬の顔はみるみるうちに青くなっていった。
「今日こうなる事は大体予想してたよ。でも、これは予想以上だ・・・!!」
「、俺が骸さんに渡しとこっかー?」
「駄目よ、犬!本人が渡さないと意味が無いんだから!」
予鈴が鳴ったので、三人はそれぞれの弁当箱を取って屋上を後にした。
未だに骸にチョコを渡そうとする女子の中教室へ戻るのは非常に困難であった。
「ついに放課後になってしまった・・・」
の手には骸に渡す(予定)本命チョコ、場所は廊下。
密かに放課後に渡そうと心に決めていただが、当然の如く同じ考えの女子に勢い負けをする。
本当に、この学校中の女子が彼にチョコを渡しに来ているのでは、というほどの数だった。
「さぁどうする、柿ピー」
「・・・なんで人に振るの」
「・・・さぁ」
の溜め息は時間が経つに連れ回数が増していく。
同時に情緒不安定にもなるから、側に居る千種と犬はとんだ被害を喰らう。
特に犬は何も考えずに余計な発言をするから、千種にこれ以上喋ると殺す、とまで念を押された。
「本当に・・・今日渡せないまま終わるのかな」
携帯の時計を見ると、最終下校時刻間近だった。
あっ、そうだ、と何かを思い出したかのようには彼女の鞄を漁りだした。
「はい、犬、柿ピー。今日はたくさん迷惑かけたから、そのお詫びも込めて」
千種と犬の前に差し出されたのは、本日が用意していたバレンタインチョコだった。
当然、本命チョコとは出来が違うけれど。
「マジで!?っひゃー、サンキューっ」
「・・・有難う」
「今日は本当ごめんね、あとは自力で何とかします!」
だから、二人は帰って晩ご飯でも作っててあげて。
二人はにそう言われて、じゃ、頑張って、とだけ言って帰って行った。
「・・・犬」
「なに、柿ピー?」
「にチョコもらったの、骸様には黙っときなよ。・・・殺される」
「・・・あ、む、骸さんっ!」
最終手段・下駄箱で待ち伏せ。
流石に下校となると、骸の周りを取り巻いていた女子の姿も見られなくなった。
心なしか彼の表情には窶れが伺える。
「・・・」
「あのっ、お、おはよう!」
「?」
ああ、そう言えば今日は初めて喋りましたね、おはようございます、と言われ、はとても温かい気持ちになった。
こうして間近で見るのが久しぶりに感じるほど、今日の彼はにとって遠い存在だった。
「なんか、今日は大変お疲れ様です」
「・・・日本の女性は予想以上に手強いですね」
「あたしも今日のは予想以上すぎてびっくりしたよ」
は、骸の日本の女性は手強いという台詞にくすくすと笑う。
あの骸さんでも手強いと感じるんだなあと、一人納得。
笑っていたら骸さんに怪しまれた。
「今日ので骸さんがどれだけモテてるか改めて分かったよ」
「クフフ、そうですか。でも僕が好きなのはだけですよ」
「・・・ちょっと、照れるんですが」
そう言いつつも、やはりチョコの事が気になって仕方がなかった。
何個もらったのかな、やっぱ告白もされたんだろうな、と考えると、嫉妬心でいっぱいになる。
その度にああ、あたしはなんて小さい人間なんだとは自己嫌悪に陥る。
もしかしたらチョコをもらいすぎて自分のなんて必要無いのかもしれない。
そう思うとの気分は余計に沈んでいく。
「は、僕にチョコ無いんですか?」
にっこりと問う骸に、はうっと言葉に詰まった。
渡したい気持ちは山々だが、それと比例するように他の女子に対する嫉妬心も上昇する。
思わずの口から漏れたのは、思ってもない言葉だった。
「・・・いるの?」
「そりゃあ欲しいですよ」
「他の女子からたくさんもらってるから、てっきりあたしのなんていらないと思ってた」
目も合わせずにそう言う。
暫くの間気まずい沈黙が流れ、言わなきゃ良かったとは後悔した。
「、何言ってるんですか」
「・・・・」
「僕は一つだって以外の女子からもらいませんよ」
「・・・は?え、何、あんな光景見せられて信じれると思うの?」
「だって、そういうのは好きな子以外からもらっちゃいけないんでしょう?」
だから、全部断りました。
この時、は骸に完敗した、と確信した。
本当に、この笑顔には勝てない。
「でも、にもらえなかったら今年の収穫はゼロですねぇ」
「・・・ごめん、骸さん、嘘吐いた」
「どんな嘘ですか?」
「あたし・・・ちゃんとこの日の為に用意してたんだよ」
は自分の鞄から、犬や千種にあげたものとは違うチョコを取り出した。
「好きです、骸さん。これからも、ずっとあたしの側に居て下さい」
「有難う、」
僕の台詞、先に言われてしまいましたね
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あとがき(言い訳)
バレンタイン夢です。
なんか骸さんよりも柿ピーと犬夢っぽい!
しかも骸さん偽者だし!げふんげふん
それでも黒曜書くの楽しいです。
骸さんは分かっていながらも分かってないふりをしてわざとらしく聞いてくるといい(意味不明だよ)