クラスの人気者で明るくて、サッカー部のエースストライカーでもあり選抜にも選ばれている彼。

学校のお祭り事にも積極的で男女問わず誰とも仲が良い彼。


だから、あたしには手が届かない。
































あともう少しだけ、をください。


























「・・・こんなもんで大丈夫?あたしよく分からないんだけど」

「大丈夫大丈夫!何とかなるって」

「いや、ならないと思うんだけど」



夕焼けのオレンジの光があたしと藤代君の居る教室を眩しく照らした。

逆行で藤代君の顔は見えないけれど、きっと何時もと同じ笑顔だと思う。


今二人で同じ教室で同じ事が出来てるのは多分奇跡だろう。
文化祭の実行委員の特権。



「喫茶店とか出した事無いから本当良く分からないんだけど。テーブルクロス足りてる?」



バサッとテーブルクロスを机に掛けてその上に花瓶を並べる。

あたしは明日生まれて初めて喫茶店の模擬店を出す。

机を並べたりはクラス全員でやったけど、最終チェックや最後の飾り付けなどは実行委員の仕事である。
実行委員以外はもう帰ってよしとの命令が下されたので、今教室には実行委員であるあたしと藤代君しか居ない。

友達は薄情だ。



「俺だって初めてだよ。去年はジャンケンで負けて出せなかったしね」

「あ、テーブルクロスこっち余った。これそっちにあげるから掛けといて」



絡み合っていないぎこちない会話を続けながら、あたし達は作業を進めていった。

夕焼けに照らされた二人っきりの教室なんてシチュエーションは、例え相手が好きな人じゃなくても緊張するものである。
・・・相手が好きな人だったら、もっともっと緊張するのである。




ぎこちない会話もそろそろ底が尽きてきたのか、さっきまで開いていたあたしの口は閉まり、
教室には沈黙と作業を進める音だけが響いていた。

藤代君の楽天的な性格からしたらあたしが急に黙った事くらいでは別に何とも思わないだろうけど、
あたしにとっての其れは少しばかりか気まずい雰囲気としてインプットされている。
何とかしてこの沈黙を破ろうとして必死に頭の中で言葉を探しても、こんな時に限って思いつかない自分に嫌気が差した。



「・・・っ、へくしゅっ」



沈黙を破ったのは急に出てしまったあたしのくしゃみだった。

脳が其れを藤代君に聞こえてしまったと理解すると、あたしの顔は瞬く間に赤くなっていったのが自分でも分かった。



「寒い?」

「べ、別に!今ちょっと風邪気味だから」


顔が赤くなってるのがばれないように、あたしは藤代君に背中を向けた。
途端、背中が急に少し重くなったのを感じた。


「え・・・」

「風邪気味なんだったらもっと駄目じゃん。俺のブレザー貸すから」

「あ、ありがとう・・・」


きっと今のあたしの顔は高熱を出した時よりも熱く、林檎よりも赤い。

それがばれないように、あたしは無言で俯き続けた。




















はさー。教室のドアとかに飾りとかしたい?」

「そりゃぁその方が可愛いけど・・・もう時間がアレじゃない?六時回ってる」


時計を見上げると、時刻は六時二十分を回っていた。
この季節のその時間は、外が真っ暗になっても可笑しくない時間である。


「そっかー。もう他のクラスも終わってるよな・・・どうする?」

「・・・やる」

「さっすが俺の片割れ!」

「なにその『片割れ』って・・・」


時々藤代君は疲れという単語を知らないのかと思う事がある。

何時も元気で明るいが故にあたしからは遠い存在。

こんなに遅くまで作業を続けていてあたしは正直結構疲れていた。
同じ量同じ作業を続けていたのに藤代君は疲れたという素振りを全く見せないでいる。

だから、聞いてみた。



「藤代君は疲れてないの?」

「え?そりゃ疲れてるよ。でも楽しいし、どうせなら最高の文化祭にしたいじゃん。だから頑張ってる」

「そっか」

は楽しくないの?」

「ううん。そんな事ない。さ、作業続きやろっか」



藤代君にこんな質問するのが間違ってたか、とあたしは再び作業を始めた。

廊下の飾りつけは友人のによれば派手に、目立つように、との事。
そんな事言うんなら自分でやれと思ったけど、で自分の分担された役を頑張ってるのであたしは何も言わないでおいた。

ドアの枠にそって花を付けたりしていたら、高い所は藤代君がやってくれたので嬉しかった。







「・・・もうやる事無いよね?」

「うん、終わり。お疲れさん。明日超楽しみ」

「藤代君もう帰るの?」

「俺寮だから」

「あ、そっか」



作業は終わったので教室の電気を消したら、辺りは暗闇だけになってしまった。

廊下から見える夜景はあたし的には100万ドルの夜景以上に思えた。
それは多分横に藤代君が居て、あたしは藤代君と一緒にその夜景を見てるからだと思う。


それも、今日まで。

明日が終わればあたし達は只のクラスメイトに戻る。
席も近くない、休み時間に一緒に話す事も無い、只のクラスメイト。


・・・そんなの、厭だ。




「文化祭が終わったら、次は後夜祭だね」

「それはそれで楽しみだよな」

「後夜祭で告白して、ブレザーのボタンを交換し合ったら一生愛し合えるってジンクス知ってる?」

「そんなジンクスあったっけ!?俺知らなかった・・・」

「だから、藤代君誰かに告られるかもね」



あたしが冗談っぽくそう言うと、藤代君が少し照れくさそうな顔をしてるのが暗闇の中からでも窺えた。

まぁでもそれは本当だと思う。
藤代君がモテてるのはあたし自身よく知っている事だから。

運動が出来て笑顔が可愛くて、勉強はアレだけど人懐こくて誰からも好かれている。
だから、あたしには遠い存在。

だから、あたしは実行委員に立候補した。
少しでも藤代君と仲良くなれるきっかけを作ろうと。



「・・・あたしも実はね、藤代君のブレザーのボタン欲しいと思ってたりする」

「え?」

「くれる?」



数秒経ってから藤代君はあたしの言葉を理解したようで、少し驚いた顔をしていた。
そして、少し困ったような顔も。

あたしなりのこれは告白。
後夜祭なんて待ってられない。最大のチャンスなんだ。



「あたし、厭だ。文化祭終わるの」

「なんで・・・?」

「だって・・・文化祭終わっちゃったらあたし・・・もう藤代君と喋るきっかけが無い」



自分でも何を言ってるのか理解出来ず、あたしはただ本能のままに言葉を続けた。
きっと今日しか言えない言葉。



「あたし・・・藤代君が好き」



夜景を見ながら言ったから、藤代君がどんな表情をしているのかは分からない。
ただ、夜景が凄く綺麗だと感じながら。



「だから藤代君のボタンが欲しい。藤代君が好きだから」

・・・?」

「分かってるよ、藤代君が選抜とかで忙しいのくらい。でも・・・好きだから・・・」


だから、どうしても今返事が欲しい。
出来れば、貴方の心も欲しい。
貴方が、欲しい。


「なんかばっかり言ってるけど・・・俺だってそうなんだから誤解しないでよ」

「・・・え?」

「俺もずっとを見てたから・・・勉強出来るし、明るいし、その・・・可愛いなって」

「う、そ・・・」

「嘘じゃない。だからその・・・嬉しい。俺のボタンなんかで良かったら、うん・・・・」

「・・・ありがとう・・・・」




後夜祭のジンクスは効かないかもしれない。

でもそれでもいい。
あたしは皆より一日早く大切な人が出来たから。




夢なんかじゃない。

でも、もしこれが夢だったら。



どうか、醒めないでください。






























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あとがき(言い訳)

ああ、本当久しぶりの更新ですいません・・!
しかも夢オチでもいけそうな閉めですがきっと夢オチじゃないです・・・たぶん・・・
藤代セイジンがやたら偽者くさいですがどうか暖かい目で見守ってやってください・・!
私の学校の文化祭は今年から消えて、後夜祭なんかは元々無いのですごく憧れてました(笑)