うちのクラスに転校してきた奴の第一印象は最悪だった。


「イタリアに留学していた転入生の獄寺隼人君だ」


眼つき最悪、態度最悪。
最悪って言葉は彼の為にあるんだと思った。

でも、あたしはそんな彼に決して嫌悪感は抱かなかった事は覚えている。


































              場in the afternoon


































、5時間目数学だよ。宿題やった?」

「あー・・・やってない」

「やばいよ、前も忘れてたじゃん!今度こそ根津に報告されたら完全に目ぇ付けられるよ!急いでやろうよ」

「いーよ、別に。もう付けられてるもん」



やらなくても理解出来てるし、とは言わなかった。


担任の根津にはもうだいぶ前から目ぇくらい付けられてるし、数学教師にだって決して良い印象を与えてなんかない。



「駄目だよ!来年受験なんだから、これからでも良い印象与えとかないと」

「高校は行くつもりないから」

「駄目だって〜・・・」



あたしの事なのに真剣になって言ってくれるは、本当に良い友達だと思う。
その友達にあたしは真剣に応えた事があったんだろうか。
きっと無い。
親不孝者じゃなくて友達不孝者だ、あたしは。



「・・・ごめんね、

「え?」

「いや・・・何となく」



謝っておかないとやっていけない気がしたから。

案の定はわけが分からなさそうな顔をしていたけど、それで良いと思った。
これからも迷惑をかけてしまうけれど、ごめん。



「五時間目あたしさぼるわ」

「えっ!?」

「あたしみたいなの、授業に居ない方がやり易いでしょ?だから適当に何処かふらついてくるね」

「何処かって・・・。ー!」

「先生には適当に何か言っといて。言わなくてもいいけど」



後ろで少し困ったような声を出すが居たけれど、あたしは気にせずその場を去って屋上へ向かっていった。





屋上へ上る階段の途中で本令が鳴った。

今の時間屋上でさぼる人は少ないだろうから、あたしは何も気にせずにドアを開けた。


屋上のドアを開けたこの瞬間が好きだ。
狭い屋内から広い空が見える、この瞬間。



「あー・・・・」


目の前いっぱいに広がった空を見て無意識に呟いた。
風が心地良い。


心地良い風に乗って臭いがしてきた。

間違いない、これは煙草だ。
其処に誰か居る。



「・・・誰か居るの?」

「あ?」



建物の影でよく見えなかったけど、確かに其処に誰か居た。

誰かは分からなかった。
確かめようと思って近づいたら、その人は。



「獄寺・・君?」

「・・・誰だ、あんた」


口に咥えていた煙草を指で挟んで煙を吐くその姿を見て、少しかっこいいと思った。

聞かれた質問に答える事を忘れて、少しだけ魅入ってしまった。


「あたしは。獄寺君と同じクラスだよ」

「ふーん」

「転校二日目からさぼりなんて余裕だね。根津に目ぇ付けられるよ?」

「そういうあんたもさぼりだろーが。つーか根津って誰だよ」

「あたしはもう目ぇ付けられてるから今更って感じ。根津ってのはうちのクラスの担任」

「あっそう」


あたしがそう答えたら、獄寺君は大して興味も無さそうに再び煙草を咥えた。

あたしは嫌がられるかな、と思いながらも彼の隣に腰掛けた。
あたしのその行動に獄寺君は、別に嫌がりも喜びもせずに、ただ煙草を吸ってるだけだった。



「煙草って美味しいの?」

「美味い」

「でも身体に悪いよ。本人にも害が有るし、周りの人にも迷惑かけるし」

「じゃああんたがどっか行けば良いだろ」

「そういう問題じゃないって」



小姑のようにとやかく言うあたしに獄寺君は、うっせぇな、じゃあお前も吸ってみろよとあたしの前に一本の煙草を差し出した。

それをあたしは拒否した。

煙草は嫌いだ。
煙草の形も臭いも何もかも。

あの頃のあたしがフラッシュバックするから。



「あたし煙草に良い思い出なんか一つも無いもん。絶対吸わないよ」

「勿体ねぇな」

「別に・・・。・・・お父さんが煙草を吸ってたから嫌い、なのかな」

「父親なんて皆吸ってるだろ」

「お父さん・・・って呼べるのかなぁ。あたしの・・・お父さんは最低な人だったから」


無職で仕事もしないで毎日何処かへ遊びに行って借金を増やして、家ではあたしやあたしのお母さんに暴力を振って。
飲み干したお酒の瓶でお母さんを殴って、蹴って、あたしの腕や足には燃えている煙草を押し付けて。

煙草。煙草の痕。消えない。消えてくれない。
煙草は厭だ。嫌いだ。
あの形も臭いも何もかも。



「本当・・・毎日が苦痛だったよ。部屋には煙草の臭いが充満してた」

「・・・・」



初対面の人間になんでこんな事話してるのか、あたし自身分からなかった。

あたしの前じゃなければ別に誰が煙草を吸ってても良いと思う。
でも、獄寺君には煙草なんて吸って欲しくないと思ってたんだ。



「・・・まぁ、という事であたしは煙草が大の苦手だったりするんだよ。電車の中とかもう地獄だね」

「・・・悪かったな」



獄寺君は今さっきまで吸っていた煙草を地面に擦り付けて消して、その吸殻を何処かへ投げ捨てた。
ちょっと屋上掃除の当番の人が可哀想だと思った。

そして獄寺君はあたしの方を向いて、少し罪悪感のあるような表情をした。
案外悪い人じゃなかったんだ。あたしの推測は当たってた。



「とりあえず、そんな過去抜きにしても煙草は身体に悪いんだからね!だから吸っちゃ駄目だよ。イタリアで習わなかった?」

「まぁ気を付けるようにするさ。イタリアに居た頃にそんなん習った憶えはねーな」

「嘘っ!?それって獄寺君が忘れてるだけじゃないの?」

「んだと?」

「なな、なんでもないです・・・」


それから一息吐いてから、再び胸ポケットに仕舞ってある煙草に手を出そうとして、はっと気付いたようにまた手を引っ込める彼に少し笑った。
あたしが笑うと獄寺君に少し睨まれた気がした。
ああ、なんだか楽しいな。
この時間がずっと続けば良いのに。
心地良い風に吹かれて思った。

風に吹かれてまた煙草の臭いがした。

でも獄寺君は今は煙草を吸っていない。
ああ、彼の制服に付いた煙草の臭いか、とすぐに理解した。
このままその臭いが付いていたら獄寺君は後できっと根津あたりに何か言われるだろうな。


「五時間目に屋上に来ると気持ち良いよね。イタリアでもそうだった?」

「なんでてめーはさっきからイタリアイタリアって五月蝿ぇんだよ」

「気になったから」

「さぁな。そうだったんじゃねぇの?」

「あたしが質問してるんだよ。獄寺君ってちゃんと日本語使えてる?」

「使えてないわけねーだろ!なめてんのかお前は!?」

「ひー!ご、ごめんなさい!ちょっとしたお茶目だったんだよ!」


あたしがそう弁解すると、獄寺君は少し頬を赤めた気がした。
あ、もしかして日本語・・・っての、図星かも?
だって、あたしと目を合わせようとしない。


「じゃあイタリア語は上手いよね?ちょっと喋ってー」

「厭だな。誰がてめーなんかの為に喋るかよ」

「う、うわ、酷!あたしが日本語しか使えないからって馬鹿にしてるなっ!?」


今度は悪く言われるどころか無視された。
これはいくらなんでも酷いんじゃあございませんか。
しかも楽しい時間は瞬く間に過ぎていって、絶妙と言うか微妙なタイミングで五時間目終了のチャイムが鳴る。
それに合わせて獄寺君は屋上を去ろうとしたから、あたしは慌てて彼を止めた。


「・・・まだなんか用あんのかよ」

「あ・・・、あのね!あたし、今度からちゃんと授業受けるからさ、その・・・獄寺君もちゃんと授業受けようよ!ねっ?」


言い方は酷くもどかしかった。
でも、獄寺君はあたしのそのもどかしい言葉をちゃんと聞いてくれてたように思えた。
無言でドアを開けてあたしの視界から消えようとしたその姿の持ち主は、確かに手を振ってくれてた気がする。

その証拠に、彼が手に付けているアクセサリーがキラリと光ったから。

























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あとがき(言い訳)

初リボーン夢です。ごっきゅん大好きすぎて胸がキリキリします・・!病気じゃないですYO
見た目とは裏腹にアホなごっきゅんが愛しくて堪りません
屋上って青春な感じがするんで一回使ってみたかったのです(笑)
ちなみにヒロインが出会ったのはごっきゅんがツナの舎弟になった次の日あたりです