「ちょっと銀ちゃん出てきてよ!!」



万屋のドアをドンドンと叩くあたしの手は止まる事を知らない。



下のスナックのお登勢さんからは苦情が来てるけど、そんなの気にしない。

あたしが用があるのは銀ちゃん。
この扉の向こうに居るのは分かっている。

という事であたしは銀ちゃんが出てくるまで手を止める気はないのだ。



と言っても相手は出てくる気は無さそうだし、これは長期戦になりそうな予感がした。































金銭問題

























ピンポーン ピンポーン




叩くのが駄目なら鐘だ。

出てくる気なんて無いだろうけど、あたしはとにかくチャイムを鳴らし続ける。

銀ちゃんや万屋の人達にはそんなモン無いかもしれないけど、
チャイムが鳴ってるのに居留守とか使ってたら常識的に如何かしている。

あたしだって彼らに常識なんて求めてなんかないけど。
とにかく、しつこく続けてればいつかは出てくると思ったから今に至る。



「銀ちゃーん、銀ちゃーん、出てきてよー。出てこないと近所迷惑になるよー」



その原因となるあたしが近所迷惑なんて言えた義理じゃないけど。

銀ちゃんが出てこない限り近所の人以外にあたしにも迷惑がかかるのだ!




「もー、銀ちゃん居留守使うんならある事ない事変な噂流すよ?銀ちゃんの」

「おいお前!それは脅しってんだ知ってるか?」

「あ、やっと出てきてくれたー!」



銀ちゃんがやっと出てきてくれた事であたしの顔がぱあっと明るくなるのが自分でも分かった。
その点銀ちゃんはやれやれと言った感じの顔をしているけど。




「銀ちゃん居留守使うもんだからあたしどうしようかと本気で思ったのね」

「さっさと帰ればよかったのにな」

「そんなワケにはいかないよ!今日こそあたしの言う事聞いて貰いに来たんだから」

「だから俺は別にそんなのいいっての。何回言わせれば気が済むんだこの娘は」

「あたしの言う事を聞いてくれたらもう何回も言わなくて済むんだよ」




あたしが笑顔でそう言うと、銀ちゃんは困ったように頭をポリポリと掻いた。

銀ちゃんがあたしの言う事を聞きたくない理由は何となく察知してるけど、やっぱり
聞いて貰わないとあたしの気持ちが治まらない。




「あたしはただ銀ちゃんにお礼がしたいだけなの」




真剣な眼差しでそう言っても銀ちゃんはあたしから目を逸らしている。

お礼をされて困る人間は困らない人間に比べたら少ないのに。
銀ちゃんは前者の方なんだろうか。

いや、違う。

具体的には分からないけど、銀ちゃんはお礼とかが必要無いんだと思う。




「あたしが今こうして此処にいられるのも銀ちゃんのおかげなんだよ。お礼してなにが悪いってのさ」

「ならそのお礼される本人が要らねぇっつってんだから別にいいだろうが」

「だーめ。それだけは絶対駄目。じゃないとあたしの気が治まらないんだよ」

「んな事俺の知ったこっちゃねー」




ムキになって頬をぷくっと膨らませるあたしと冷たくあしらう銀ちゃん。

命の恩人にお礼をしない方が可笑しいってのに、なんでこの人はさせてくれないんだろう。




















銀ちゃんにお世話になったのは一週間とちょっと前。


あたしは今時珍しく飢えで道に倒れてた所を銀ちゃんが発見し、奢ってくれた。
その時はあたしは銀ちゃんの事をただすごくいい人だとしか思ってなかったし、
こんな風に何度も万屋に押しかけてお礼をしに行く事も無かった。


数え切れない程の感謝の言葉を銀ちゃんに浴びせ、あたしは再び江戸の町に出て行った。


数日後。
ちょっとした混乱であたしは天人にからまれていた。

勿論あたしの性格からして易々と口で負けるワケはなかったんだけど、口で同等なら力で負ける。
って事であたしは非常に危険な状態だった。

口は達者でもあたしは決して力があるワケでもない。
敵に情をかける天人なんていない。
目の前に見えるのは死。


もう駄目だと思って目を瞑ってみた次の瞬間、何も起こらなかった。
目の前には、銀ちゃんが立っていた。




『あなた・・・あの時の?』

『おいオメー、天人に喧嘩売るなんざなに自殺行為してんだよ』

『だってアレはっ・・・あたしが悪いんじゃなくてあっちが・・・』

『俺が来なかったら確実に死んでんぞお前』




銀ちゃんがそう言ったので見てみれば、あたしを襲った奴らが地面に血を流して倒れていた。

どうやらあたしは本当に危険な状態だったらしいと改めて認識した。




『あ・・・一度ならず二度までも、どうもありがとうございました』

『あー、別にいいって事よ。そんじゃ』

『ま、待って!』

『あ?』

『えっと・・・お名前は?』

『名前?坂田銀時』

『分かりました!このお礼は必ず返させて頂きます!!』



















「銀ちゃん!」

「あーもーうるせぇなー馴れ馴れしく呼ばないでくれます?」

「ヤダ!ってか何時になったらあたしに恩返しさせてくれる気になるの!?」

「恩返しって、は鶴かよ。今時そんなん俺は期待しちゃいねーよ」

「駄目!じゃないとあたしの気が済まないのよ!」

「大体俺はみたいなガキから恩返ししてもらうほど生活に困っちゃいないんでね」




まぁ、最後のは嘘だけど、と付け足す銀ちゃん。

あたしは銀ちゃんに比べたらそりゃあガキかもしれないけど、もう結婚も出来る歳だし免許も取れる歳。
ガキと言われるのは、流石に少し傷つく。




「銀ちゃんは・・・あたしの事ただの子供だと思ってるの?」

「それ以外になにがあんだよ」



その銀ちゃんの言葉が引き金となったのか、あたしの身体は自然に動いた。


銀ちゃんに飛びついたと思うと彼の首に手を回し、唇を重ねる。
閉じられた彼の唇を割って舌を滑り込ませ、絡み合わせる。



「・・・っはぁ・・これが、子供に出来る事だと思ってるの?」

「おまっ・・・なにしやがんだ正気か!?」

「正気だよ!あたしは銀ちゃんが好きなの!これ以上無いってぐらいに大好きなの!!」



万屋の前で叫んだあたしの声が厭に響いた。

銀ちゃんはこの状況を把握出来てるのか出来てないのか、何も言わずあたしを見下ろしている。



「・・・だからガキだって言ってんだよ」

「な、なにが!!」

「大人はいちいちんな事しねーよ」

「ワケ分かんな・・・・んっ」




自分の口に何かが当たったかと思うと、口を割って舌が入ってくる。
さっきあたしが銀ちゃんにしたのと同じ事。

そして、その舌は銀ちゃんのモノで。


何度も角度を変えて口内に舌を滑り込ませた。




「ぁ・・・はっ、やめっ・・んんっ・・・・」




肺に酸素を送るのも許されない状況。
あたしがしたのとは全然違う。


やっと口が解放されたかと思うと、あたしは息が切れて喘いでいた。




「・・・やっぱはガキだな」

「ち、違う・・・子供じゃな・・・はぁ、はぁ・・・・」

「俺が今までお前の言う事聞かなかった理由分かるか?」

「全然・・・分かんない・・・」

「奢ったのも助けたのも、好きな奴にするのは当然だからだよ」




一瞬、頭の中が真っ白になった。

銀ちゃんが何を言ったのかとか、何をしたのかされたのかとか全然分からなくなった。




「全然分からない・・・」

「俺もが好きだって言ってんだよ、分かれよな」

「だって銀ちゃんはあたしの事子供だって・・・」

「誰もガキが嫌いだなんて言ってねーだろが」




それに、俺は好きでもない奴にこんな事はしない。

銀ちゃんが言ってる事を理解するのに数秒掛かった。


未だに俯いているあたしの肩に銀ちゃんはぽん、と手を置いた。




「ま、そーいう事だ。だからオメーはお礼しようなんざ思わなくてもいいんだよ」




そう言って苦笑する銀ちゃんは小さい子を宥めるかのように笑っていた。



確かに、あたしはまだまだ子供かもしれない。
でも子供だって何時かは成長して大人になるんだから、その時は銀ちゃんを見返してやろうと思う。























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あとがき(言い訳)

なんか微妙な初銀ちゃん夢。
銀ちゃんは最近かっこよくて大好きです。
特にあの下着ドロの回なんか・・!!(何訓か忘れた)























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