雨の日は嫌いじゃない。
寧ろ好き。
あたしの中の汚れたモノを全部洗い流してくれたような気がするから。
だから、雨の日は嫌いじゃない。
RAINY DAY
「はぁ・・・」
この年代の女の子はどうしてこんなくだらない事が好きなんだろう。
やったって本人に利があるワケでもないのにさ。
あたしにはたぶんその気持ちは一生理解出来ないね。
そんな事を考えながらあたしは自分の机の上に置かれた・・・いや、寧ろ捨てられたと言うべきか。
破かれたり、落書きでぐちゃぐちゃになった教科書達を見つめた。
こんな事をされ始めた頃はそれはあたしもショックが隠せなかった。
でも今はこんな光景見慣れてる。
自分が息をするのと同じように、当たり前になってきている光景。
あたしは、世間で言う『いじめ』に遭っている。
その理由は、あたしだって分かっている。
くだらない。
学校で人気のある三年の先輩に告白されて、それで未だにしつこく付き纏われてるのがそんなに羨ましいのか。
あたしはそれがウザくて仕方ないっていうのに。
それでいじめにも遭ってるとかたまったモンじゃないよ。
ま、もう慣れてるけどね。
あたしの周りでは、クラスの女子がこっちを見て笑ってやがる。
こんな事をして笑ってられる神経が理解出来ない。
おまけにあたしの耳にはその笑い声がBGMになるから鬱陶しくて堪らない。
出来るだけその声が耳に入らないように目の前の事にだけ集中しながら、
あたしは破かれた教科書をトントンと整理した。
ふと見ると、外は雨が降っている。
今日の体育は体育館かーとか思いながら運動場を眺める。
運動部に入ってる男子とかは「げーっ」とか言ってる。ご愁傷様。
おそらく今日の運動部は中止だ。
ま、帰宅部のあたしには関係のない話だけど。
ぼーっと何をするでもなくただ運動場を眺めていると、休み時間終了のチャイムが鳴る。
皆は席に着き始め、あたしも自分の席に座る。
時間割を見ると、次は国語。
やばいな、国語は教科書破かれちゃってるよ。
借りるのも忘れたし。今更借りに行けないし。
あたしがそんな事を考えていると、国語の西川先生が教室に入ってくる。
それでまだ席を立っていたクラスメイト達も、完全に席に着いた。
「えー、じゃあ今日は57ページからですねー。はい、教科書開けてー」
軽い口調で授業を進める西川先生は、二十代後半の若くて綺麗な女性だった。
美人で、教師よりもモデルの方が向いてるんじゃないかってぐらい。
おかげで、この学校の男子で西川先生に憧れや好意の感情を抱いている者は少なくない。
反面、女子からの評判は超が付くくらい悪いんだけど。
「では三行目から。さん、読んで下さい」
あ、やばい。当てられた。
どうしよう。教科書無いのに。
「さん?」
「あ・・・」
あたしは当てられたからという理由だけで立ち上がり、そして教科書も出していないのを見て
西川先生は不思議そうな顔をこちらに向けた。
教室の隅の方で女子が小声で笑っている。
畜生。お前らが破いたんだな。
「教科書・・・忘れました」
正確には忘れてなんかないんだけど。
破かれたんだけど。
そんな事、言える筈ないし。
そう思ってると、横から教科書が差し出された。
「え・・・?」
「教科書、ないんでしょ?貸してあげるよ」
「あ、ありがとう・・・」
あたしの隣の席の郭君。
クールで美形で、特にこのクラスの女子が放っておくワケなんか無いくらい人気がある。
周りで女子がきゃあきゃあ黄色い声を上げても気にもせずに常に冷静。
喋ってるトコなんて見た事がない。
イコール、あたしも郭君に話しかけられたのはこれが初めてで、すごく吃驚した。
喋った事もない人間に教科書を貸してくれるなんて。
郭君はいい人だ。
「あ、じゃあさん読めるわね?三行目から」
先生が授業再開の言葉をかけてくる。
あたしが教科書を読み出すと、さっき小声で笑っていた女子の方から痛い視線が突き刺さる。
あー、あいつら『郭君かっこいーv』とか言ってたもんなあ。
そいつらの悔しがる姿を想像してみて、ちょっと笑えた。
あたしは教科書を読み終えて、その教科書を郭君に返した。
「その・・・ありがとう」
「・・・別に。そっちは大変そうだからね」
郭君はあたしに目も合わせてくれないけど。
でも、どこか温かみのある言葉だった。
国語の次は体育だった。
本当は外でやる予定だったけど、雨が降ってるので体育館に変更。
今日はバレーをする予定らしいので、体育館に行くとバレーボールとネットが既に用意されていた。
皆はチャイムが鳴るまで友達と話し込んでそうだけど、生憎あたしにはそういう人はいない。
クラスに味方なんていう人は。
敵ばかり。
用意もしてあるし、何もする事がないので壁にもたれ掛かっていると男子が入ってきた。
そうか、今日は雨だから男子も同じ体育館でやるんだなーとかしみじみ思う。
女子の何人かはその中に好きな人でもいるのか、チラチラと男子の方を見ていた。
郭君が入ってきた瞬間なんて凄かった。
凄すぎて恐ろしい。
言葉には出してはいなかったけど、表情が変わった。
顔を赤くして目を逸らす人もいれば魅入ったかのように郭君を見つめる人もいる。
面白い。
そこで授業開始のチャイムが鳴る。
先生が皆を並ばせて座らせていくと、遅れてきた者が体育館に息を切らして入ってきた。
それはあたしの教科書を破いたり色々してくるのグループだった。
「遅いぞ、お前ら!」
「すいませーんトイレ行ってましたぁ」
「今度から気をつけろよ」
「はぁーい」
先生から注意を受けた後、達は列に入ってきた。
「今日はバレーボールをするので、六人前後のグループを作れ」
先生がそう呼びかけると、女子達は一斉にグループで固まりだす。
はぶられているあたしはどうしようもないので、その場から動かずにじっとしていた。
どうせどのグループもあたしを入れる気なんてないだろうし。
だからあたしはじっとしていた。
最終的には人数が足りない所に入らせてもらうだろうし。
予想通り、あたしは人数が足りないグループに入った。
グループの人達は表では出さないものの、内心厭々だろう。
に目を付けられてるあたしなんかとは関わりたくないだろうしね。
口に出さなくても表情で分かるんだよ。
厭な特技(でもないか)を持ってしまったもんだ。
どうやらグループでリーダーを決めないといけないらしく、あたし達は話し合いをしていた。
話し合いと言うか、押し付け合いと言うか。
「誰がリーダーやるの?」
「えー、あたしヤだよーバレーとか全然出来ないし」
「ルールとかも知らないしー」
さっきからずっとこんな会話が続いている。
この調子だと一生決まらなさそうだ。
別にリーダーだからといってそんな大そうな事するわけでもなさそうだけど。
ルールとかもバレーやってなかったら知らなくて当然と言えば当然だと思うけど。
「あたしやろうか?」
元々あたしだってやる気は無かったけど、このままだと埒が明かなさそうなんで。
挙手してそう言った。
「え、さんやってくれるの!?」
「マジ!?ラッキー!」
という事であたしがリーダーになった。
リーダーと言っても試合の結果とか審判をするだけだったけど。
皆はルール知らなーいとかそういうのじゃなくてただ面倒くさいだけじゃないのかと思う。
別にあたしは面倒くさいの嫌いじゃないからいいんだけどね。
体育が終わり、皆は更衣室に戻って行った。
その時異様に達がニヤニヤしてたけど、あたしは気にしないようにした。
更衣室に入ると、何だかざわついていた。
「ちょっとーこれヤバいんじゃない!?」
「可哀想ーやったの誰?」
「あたしじゃないよ!!」
何で皆一ヶ所に集まってるんだろうと思いながらあたしもその場に行く。
すると、誰かの制服のスカートがハサミか何かで切られていた。
厭な予感がした。
「誰のだろーこれ・・・」
集団の中の一人が、そのスカートを拾って名前を見た。
「『』・・・・・・あ」
どうやらその人はあたしがいる事に気付いたらしく、場が悪そうな顔をした。
あたしは、何も言わなかった。
あたしは、駆け出した。
頬には涙が流れてたのかもしれない。
あの時達が遅れて来たのはスカートを切ってたからか?
畜生。
更衣室のドアを開けると、向こうに男子が歩いてるのが見えた。
もしかして泣いているのを見られたのかもしれないけど、そんなの気にしない。
とにかく、あたしは行くあてもなく走って行った。
に何をされても泣かない。
別にあたしは何も悪い事なんてしてないんだから泣く必要もいじめられる必要もない。
あいつらの為に泣くなんて涙が勿体無い。
あたしの涙は感動した時に流す為にあるんだよ。
今まではそう思って泣くのをじっと我慢していたけど、今回は。
今回は、レベルが違いすぎると思う。
だから、泣いてしまった。
「・・・ちっくしょー・・・」
着いた場所は保健室だった。
ラッキーな事に先生はおらず、おまけに鍵も掛け忘れてくれている。
あたしは迷わず中に入った。
保健室に入ると、薬品独特のあの臭いが鼻にくる。
あたしは先生がいないのをいい事に、勝手に保健室のベッドに腰掛ける。
とにかく、落ち着きたかった。
泣いてしまった事の悔しさと、怒り。
畜生。
ちょっと落ち着いてきたかなと思い始めたら、いきなり保健室のドアが開く音がして飛び上がった。
先生が来たのかと思って一瞬焦った。
「・・・?」
「・・・え?」
先生の声じゃなかった。
男子の声。
しかも、さっき聞いたような。
「郭、君・・・?」
え、なんで郭君が?
え、なんであたしが此処にいるのを知ってるの?
え、なんで?
「・・・何してんの?」
「いや、郭君こそなんで此処にいるの?」
「さっきが保健室に駆け込むのが見えたから」
ちらっと郭君の顔を見ると、郭君は怒ってるのか笑ってるのかよく分からない表情をしている。
それがクールで、女子の人気を集めてるのかーと改めて思った。
そして正直、その顔は美しく思えた。
「行かなくて・・・いいの?」
「え?」
「だって早く行かないと次の授業に遅れるじゃん」
授業と授業の間の休み時間なんて短いのに。
早く行かないと制服に着替えられないどころか授業にも遅れてしまうかもしれないのに。
「が授業に出ないんだったら俺も出ないよ」
えっと・・・言葉の意味が理解出来ません。
それはあたしが授業をサボると言ったら郭君も一緒にサボるとか、そういう意味ですか?
「え、なんで?」
「別に俺が来たからって泣くのを我慢したりしなくていいよ」
それ、ちゃんと質問の答えになってません、郭君。
あたしは郭君が此処にいる理由を聞いてるのに。
なんで、郭君がそんなに優しくしてくれるのか分からない。
なんで、そんなにあたしを構ってくれるのか分からない。
構わないで。構わないでよ。
泣いちゃうじゃない。
「う・・・・ふぇ・・・」
涙が頬を伝って床に落ちていくのが分かった。
本日二回目の涙。
「今まで・・・辛かったんだよね」
なんで、郭君はそんな優しい言葉をかけてくれるのか分からない。
郭君の優しさが胸にじーんときて。
それで、泣いた。
「俺は、ずっと見てきたから分かるよ」
窓の外は相変わらず雨が降っていて。
今のあたしの涙のようで。
「が・・・好きだから」
こんな時も郭君は冷静だ。
あたしだったらドキドキして上手く言えない言葉を躊躇いもなく言えて。
郭君につられてか知らないけど、あたしも冷静だった。
その告白も、冷静に心に仕舞っておいて。
「・・・好き」
泣いてて、上手く言えない。
恥ずかしくて、上手く言えない。
嬉しくて、上手く言えない。
「あたしも郭君が好き・・・」
あたしが楽しくもない学校に来る理由なんて簡単だ。
彼がいるから。
彼に逢えるから。
どれだけ辛い思いをしたって、彼がいたから今までこれた。
「あたしも郭君をずっと見てきた・・・」
涙でぐちゃぐちゃになったあたしの頬に郭君が軽いキスを落とした。
ちらっと郭君の顔を見ると、怒ってるのか笑ってるのか分からないような表情をしていた。
けど、たぶんその顔は笑ってたんだと思う。
優しい感じがしたから。
雨は止んでいた。
雲の隙間から光が差し込み、コンクリートの地面を照らす。
今のあたしの気持ちのような天気。
雨の日よりも、晴れの日の方が好きなのかもしれない。
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あとがき(言い訳)
英士が偽者くさくてごめんなさい・・・!
そしてキモくて(以下略)
大体かっくん夢と呼べるのか危うい
とにかく一度いじめられてるヒロインというのが書けて満足
やっぱり心の拠り所は好きな人だと思うのですよ
ちなみに私は雨の日は好きです 降ると嬉しいです喜びます
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