01*繋ぐ手の温かさ
「・・・げほっ!!」
思いっきりとても女の子とは思えない咳をしたあたしの顔には少し涙が浮かんだ目と鼻水。
喉が痛い、ヒリヒリする。
頭も痛い、ガンガンする。
意識さえ朦朧としてきたあたしの目に映るのは総悟君。
「大丈夫ですかィさん?」
「だい・・・じょーぶ・・・だと思、う・・・」
「俺から見たら全然大丈夫そうには見えやせんぜ?」
「本当・・・大丈夫だから、総悟君は仕事に戻っていい、よ・・・」
「大事な彼女が熱出して寝込んでるのに仕事に行くのは何処の薄情者だィ」
「うーん・・・」
季節は太陽照りつける八月の半ば。
あたしは夏風邪をひいていた。
良く夏風邪は何とかがひくとか言うけど、あたしはそれに妥当してるのかもしれない。
それとも昨日買出しに傘も持たずに町まで行って雨に打たれて帰ってきたからかもしれない。
とにかく、あたしが風邪をひく原因となるものは沢山あった。
「熱はどうですかィ?」
「・・・んーっと・・・38℃7分」
「全然下がりやせんねェ」
「ごめん総悟君・・・あたしが風邪ひいた所為で・・仕事出来なく、て・・・」
「さんの所為じゃありませんぜ。誰だって風邪はひきますから」
総悟君はそう言ってさっきからあたしの額に乗せているタオルの取替えを休み無くしてくれている。
本当、悪いなぁと思う。
総悟君がそう言ってくれてもあたしの中のもやもやは消えない。
総悟君だって決して暇なワケでもないのに、あたしの為に時間を費やしてくれて。
感謝の気持ちと申し訳ない気持ちが混ざり合って複雑な心境だった。
「おう、大丈夫か」
「あ・・・土方、さん・・・」
「うわ、相変わらず顔赤いじゃねーか」
ドアを開けて入ってきたのは副長の土方さんだった。
土方さんはあたしの横でしゃがんでタオルを退け、額に触れる。
「熱っ・・・おい、お前何度ある?」
「38℃で、す・・・」
「薬とか買って来なくて大丈夫なのか?」
「あ、はい・・・全然大丈夫です、から・・・」
「ちょっと土方さん、なにどさくさに紛れて俺のさんに触ってんですか」
「あぁ!?何時からはお前のモンになったんだよ?」
「生まれた時からさんは俺のさんですぜ」
「お前総悟ふざけんな!」
「あ、土方さんあんまり大声出さないでくだせェ。さん熱出してるんですぜ?」
総悟君が土方さんにそう言うと、土方さんは慌ててあたしの方を見た。
あたしは相変わらずぜぇぜぇはぁはぁと息を切らしていた。
「す、すまん・・・」
「あ、いえ・・・別に大丈夫です・・お気になさらず・・」
「つーか土方さん邪魔なんで出て行ってもらえます?」
「あぁ!?お前なんか言ったか!?」
「べ、別に邪魔なんて事は・・・」
「土方さんすぐに怒りますから。さんの為を思って出て行ってくだせェ」
「・・・分かったよ。じゃあまた来る」
「来なくていいですって」
「お前は黙っとけ!!」
土方さんは総悟君が追い出したかのような形で部屋から出て行った。
部屋の中は再びあたしと総悟君だけになる。
「別にあたしは・・・邪魔じゃなかった・・んだけど・・・」
「・・・さんは分かってませんねェ」
「え・・・?」
「別になんでもないですぜ」
やばい。さっきよりもしんどくなってきたかもしれない。
頭痛が先ほどよりも酷い。
神経が麻痺している両手で頭を押さえる。
「さん?どうかしたんですか」
「痛い・・・」
「え?」
「・・・あ、べ、別になんでもない・・・か、ら」
ここで『さっきよりも頭が凄く痛い』と言えば総悟君は痛み止めの薬を持ってきてくれてただろう。
でも、これ以上彼に迷惑をかけるのは流石に厭だった。
総悟君に迷惑がかかるのなら頭痛ぐらい我慢してやる。
そう思ってあたしは何も言わなかった。
その間頭痛は激しさを増し、一秒一秒が長く感じられた。
「う・・・ぁ・・・はぁ、はぁ・・・」
「ちょっ・・・大丈夫なんですかィさん!?」
「・・・・・・」
「さん?」
遠くで総悟君の声が聞こえた。
うっすらと、総悟君の顔も見えた。
そこで視界も意識も途切れた。
「・・・さん、さん?」
「あ・・・総悟、君・・・?」
「あ、やっと起きましたかィ?」
「え・・・あたしは・・・」
「さんは気を失ってたんですぜ」
「え、本当に・・・?ご、ごめ・・・」
ふと手に暖かい感触を感じたので、手を見てみると総悟君があたしの手を握っていた。
あたしが気を失ってる間も握っていてくれたのだろうか。
今さっき握ったワケではなさそうだった。
「あ、たし・・・どれぐらい寝てた?」
「あぁ・・・30分ぐらいですかねェ」
「ごめん・・・迷惑ばっかりかけて・・・」
「・・・さん」
「ん?」
突然真面目な声で名前を呼ばれたので少し吃驚した。
総悟君の顔を見てみると先ほどの笑顔は無く。
「頭痛・・・激しかったんですかィ?」
「え、なんで・・・」
「さんが気を失う直前、頭を押さえてましたから」
「あ・・・」
そっか、と続けた。
よく思ったら先ほど30分前の激しい頭痛は何処かへ行ったらしく、今はだるいだけだった。
「なんで俺に言わなかったんですかィ?」
「そ、れは・・・これ以上総悟君に迷惑がかかるのは・・・」
「別に俺はそんな事気にしてませんし、いいんですぜ?」
「だって・・・」
「・・・寧ろ、もっと迷惑をかけてほしかったんですぜ」
「え?」
「さんは何でも一人でしようとするし、熱が出ても病院にも行かないし薬も要らないと言うし・・・」
「あ・・・うん・・」
「だから、俺はさんの力になりたかったんでさァ」
総悟君はそう言うと下を向いた。
罪悪感。
今のあたしには、迷惑をかけるよりも一人で抱え込んでいた事の方が悪い気がしてきた。
「ごめん、総悟君・・・」
「・・・もう大丈夫なんですかィ?」
「うん、総悟君のおかげで・・・。あたしはちゃんと総悟君を頼りにしてるから」
「・・・もっと頼ってくだせェ」
「えへへ」
総悟君の顔がちょっと赤くなった気がした。
握っている手はすごく、暖かかった。
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あとがき(言い訳)
始めました30題。
微妙な終わり方ですいません
総悟君大好きです
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